味わう間もなく流し込まれるワインを飲み下しながら、克哉はされるがままに御堂の唇を受け入れその腕を掴んでいた。
会えば何かが変わるかもしれないと思ったのはあまりに都合よすぎる考えだったのだろうか。
その何かを胸の奥で期待しつつここへ来たのに、結局はこれまでと同じことの繰り返しになりそうな展開に克哉の気持ちは沈みこんでいく。
やがて、そんな克哉の思いなど全く意に介さない様子で唇を重ねていた御堂がふいに離れた。
コト…と小さな音がしたのはグラスをサイドテーブルにでも置いたのだろう。
視覚を奪われていることは気持ちと身体をひどく緊張させる。
そうして両手が自由になったらしい御堂は再び克哉の身体を引き寄せその腕の中に取り込んでしまった。
裸の背中に触れてくるローブの柔らかさが心地いい。
背後から抱きしめられているせいで御堂の髪が首筋や耳元にあたっているのが少しくすぐったかった。
こうして密着していること、そしてこれからの行為を想像すると自然と身体の奥が熱く疼き出してしまうのだが、しかし御堂は腕の中に克哉を収めたままじっとしてしばらく動く気配を見せなかった。
いまだ緊張の解けない克哉も呼吸とともに軽く上下する御堂の胸を背中に感じながら、暗闇の中、全身で彼の姿を感じ取ろうとするかのように息を潜めていた。
「御堂さん……?」
先に沈黙を破ったのは克哉だった。
これまでの行為を思い起こせば御堂のこんな態度など初めてなだけに、何か不安にさせるものを感じて耐えられなくなっていた。
「みどう、さん?」
見えないけれど、彼の表情を確かめるように僅かに首を後ろに巡らせてみる。
が、返事はなく、代わりに反らせた首筋に暖かいものを感じた。
軽く吸い付かれる感覚にぞくりと肩を震わせる。
「ん……っ」
耳から首筋、首筋から肩甲骨、ゆっくりとうごめいていく熱に神経が集中していく。
「御堂さん、さっきの…答え」
「私が先に質問したんだ。君はまだそれに答えていない」
身体の前に回された手は喉や鎖骨を探り、少し下に降りて小さな突起を摘み上げた。
「だから…わからない、って……」
少し痛いくらいの感覚に身を捩るが、それはさらに克哉の羞恥心を煽り身体の熱を上げさせるだけだ。
まだ快感には届かない焦れったい行為。
しかし御堂は厭きることなく頂を探り肩の周辺に唇を落としていく。
「ん……っ」
片手は胸を探り、もう片方は身体中を這い回りながらも肝心なところには触れてこない。
脇の下から脇腹、腰から足の付け根。
さわさわと軽い感触は不思議なほど克哉の身体を熱く変化させていく。
―― どうしたんだろう……。
それでも何か引っかかる感じがするのは、今の御堂にこれまでの強引さが全く感じられないからだ。
その手はひたすら優しく焦れったいほどで、それは克哉が一人勝手に思い描いて快楽に耽っていたときの御堂によく似ている。
だがそんな心とは裏腹に、身体が浮き上がるような感覚を受けて克哉は無意識のうちに小さく身を捩り背中をぴたりと寄り添わせていた。
「もうこんなに興奮しているのか、君は」
「そんな…ちが……」
「違わないだろう」
御堂はシーツを握っていた克哉の手を取り、それを身体の中心へと持っていかせる。
「どんなことになっているか、自分で確かめてみろ」
「や……っ」
既に熱を含んで硬くなっていたそこは、ほんの少し触れただけで激しい快感を克哉の身体にもたらした。
御堂は執拗に自分のものを握らせようとするが、そんな恥ずかしいことなど克哉には到底できない。
いやだ、と首を振る姿に、
「まあ、君がそう言うなら好きにしろ」
と御堂はその手を離して再び身体中をまさぐり始めた。
「ん…、ぁ……っ」
ただ軽く触れられているだけなのに、身体の奥から熱いものが湧き上がってくる。
膨れた胸の頂は常に痺れるようにじりじりとして、上気した肌は軽い吐息がかかるだけでぞくりと粟立ってしまう。
最も敏感なそこは早く解放してくれとばかりに震えて濡れそぼっていた。
「触っただけでいきそうだな」
腰の辺りを彷徨っていた指がふいにその先端を掠める。
「うぁ……んっ」
強烈な快感に襲われるもののそれは一瞬で、とうてい絶頂に至るほどのものではなかった。
なのに受けた快感は指が離れたあともいつまでも消えることなく身体を震わせ続ける。
いっそのこと自分で触ってしまいたい衝動に駆られるが、まだ残っている理性はそれを到底許しはしなかった。
ぎゅっと痛いほどにシーツを握り締め、それでも耐えられない感覚に背中を御堂に預けてつい腰を揺らしてしまう。
快感と苦痛が隣り合わせになり、視界を奪われた克哉の耳に入ってくるのは自分の荒い息遣いだけになっていた。
「みどう…さ……、み…ど……」
それでもいつの間にか、助けを求めるように御堂の名前が唇から零れ始めていた。
シーツを握っていた手はあちらこちらを彷徨う御堂の腕に縋っている。
「いきたいか」
いきなり耳元で囁かれ、その吐息にさえ身体中がびくりと跳ねてしまう。
克哉はその言葉にただ何度も頷くだけで、あとはひたすら震えていることしかできなかった。
「素直に答えればいいものを……」
そう小さく呟いて、御堂は限界ぎりぎりの克哉のものに手を添えて軽く数回擦ってやる。
「あぁっ……くっ、んぁ……っ」
一際高い声とともに克哉の身体が強張り、その直後、激しく甘い解放の痺れに襲われてびくびくと腰が跳ねた。
唇から言葉にならない呻きが漏れて、やがてくたりと御堂の胸にその身体が沈み込んでくる。
「ん……」
自分の腕の中で快感の余韻に浸る克哉を見つめ、御堂は少しの間だけもたれかかってくるその髪を梳いていた。
「佐伯」
小さく呼んでみるが返事はない。
「佐伯」
もう一度、今度は耳元に唇をつけて囁いてみる。
「ん……っ」
たったそれだけのことで克哉は過剰なほどに反応して背筋を反りかえらせた。
「一度だけでは足りないようだな」
達したばかりだというのに、相変わらず熱を含んで硬くなっている克哉を手で覆いながら御堂はざらりと耳朶に舌を這わせてきた。
その刺激に再び克哉の身体に緊張が走る。
「またすぐにでもいきそうじゃないか」
「そんな…っ、ちが……」
「嘘をつくな。……ほら」
「あぁっ、や……っ」
柔らかくそこを扱かれただけで今にもいきそうなほどの快感が背筋を走りぬけ、克哉は思わず御堂の腕に縋りついた。
身体中が熱くて堪らない。
そして何より、放ったばかりの欲望が再びどうしようもないほどにせり上がってきて克哉を攻め立てる。
「みど……さ…」
自分に触れてくる御堂の手首を、やめさせたいのか続けてほしいのか分からないままにきつく掴んで名前を呼ぶ。
「ああ、いかせてやる。……何度でもな」
ふいに早くなる指に翻弄されて克哉は御堂の腕の中で身を捩った。
逃れるように首を左右に振るかと思えば、もっと身を寄せたいとばかりに背中を御堂に擦り付けて腕を掴む。
「や…、も……っ」
そうして昇りつめていく克哉をしっかりと抱き締めたまま、御堂は克哉の髪に小さな口付けを繰り返した。
「我慢しないでいけばいい。……大丈夫だ」
囁く声が聞こえているのか拒絶するように何度も首を振り、しかしそれほどの間を置かずして喉を引きつらせるような声とともに克哉は再び果てていた。
―― なに……?
ベッドに上がってから二度達したにも関わらず克哉の熱は膨れるばかりで落ち着く気配を見せない。
御堂の指が触れる場所はもちろん、背中に当たるローブの心地よさにさえ快感を感じて甘い声が漏れてしまう。
身体に引きづられるように意識も欲に溺れていき思考が全く働かなくなっていく。
何も考えることができない。
どれだけの時間がすぎているのか、その間にも御堂は克哉に触れて快感の頂点に導いていこうとする。
「御堂さ、ん……みど……さん」
熱い吐息と御堂の名前がうわ言のように続いていく中、それまで黙っていた御堂がぽつりと呟いた。
「なぜだ」
手と唇で愛撫を続けながら囁く。
「なぜ、私に会いたい?」
「みどう……さ……」
「ああ、私はここにいる。会いたかったんだろう、私に?」
「ん……」
かろうじて分かる程度に克哉は小さく頷き御堂の腕を掻き抱く。
「どうして」
―― どうして、どうして
流れ込んでくる御堂の声が頭の中で響き渡る。
―― どうして。
「…………き」
荒い息遣いの中から、やっと別の言葉が零れでる。
「なんだ?」
それを聞き取れなかった御堂はもう一度囁いた。
「なぜ私に会いたい?」
「……すき………んぁっ…ぁ……っ」
既に幾度目の絶頂なのか分からないままに克哉は精を放ち身体を震わせた。
「佐伯」
くたりと腕に落ちてくる身体を抱きしめながら、御堂は顎に手を添え多少強引に振り向かせて唇を合わせる。
「ん……」
息苦しさから逃れようとする行為を邪魔しないように、それでも何度も軽い口付けを繰り返す。
「私を好きなのか」
ほんの少しだけ唇を離して、まだ息の整わない克哉の唇を指先でなぞる。
濡れた皮膚が敏感にそれを感じ取り小さく震えた。
「すき……」
一度零れた言葉はとりとめがないように続く。
「すき……みどうさん、……すき」
もう分かったとばかりに再び唇をふさぎ、しかし今度は深く熱く舌を絡め取る。
「んっ、ん……っ」
克哉も無意識なのかそれに応えようと舌を差し出し御堂を追いかけていく。
が、ふいに御堂は唇を離してしまった。
「ん……ぁっ」
突然離れてしまったことに不満を訴えるような声が克哉の喉から漏れる。
しかし同時に御堂はその背後から克哉の正面に回りこみゆっくりとその身体をベッドに横たえた。
そうして視界を奪っていた布を取ってやる。
それは目に当たっていた部分がしっとりと濡れていた。
「んっ」
目を開けずとも部屋の灯りが瞳を刺激したのだろう、一瞬不快そうに表情を歪めたがそれも次第に和らいでいく。
やがて光に目を慣らすようにゆっくりとその瞳が開かれていった。
その過程を御堂はじっと見つめている。
「御堂…さん……」
次第に結ばれていく焦点の中で、克哉の視線が自分を見下ろす御堂を捉えていく。
「御堂さ……」
何かを問いかけるように名前を呼んだが、それも途中で塞がれてしまった。
再び唇を深く合わせて互いを確認するように舌を絡ませる。
そうしてしばらく口付けを交わし、御堂の肩に添えられていた克哉の腕がその背中を抱きしめるようになった頃。
御堂は唇を離してまだ僅かに涙の滲んでいる瞳を覗き込んだ。
「もう一度、言え」
「…………?」
「なぜ、会いにきた?」
「あ……」
多少落ち着きを取り戻した克哉が見つめ返す。
御堂の問いに、快楽にまみれた記憶が薄っすらと浮かび上がってくる。
―― すき
確かに自分は何度もそう言った。
「なぜだ」
一寸とも視線を逸らさず問いかけてくる瞳に克哉の唇が小さく動いた。
「すき……だから」
かろうじて聞き取れるほどに細い吐息まじりの声。
しかしそれを捉えた御堂は満足そうな笑みを口の端に浮かべる。
「最初からそう言えばよかったんだ」
そうしてすぐに唇を塞がれたものの、その一瞬前、御堂の表情にひどく優しい色が浮かんでいるのを克哉は見逃さなかった。
2007/09/04
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