「なんでだよ……」

思わず大きな溜息をついてうなだれた克哉はその場にしゃがみ込んでしまった。
深紅の重々しいカーテンに囲まれた空間、鼻孔をくすぐる甘ったるい香り、そしてどこか異国を思わせる不思議な響きの音楽。
いったいどうやったらここに来られるのかも分らないのに、気がつけば克哉はここにいる。
これで何度目だろう。
「帰りたい」
飲みすぎで少しだるくなってきた身体を早く横たえたかった。
ふと見れば背後にソファがある。
見覚えのあるソファに心がざわついたものの、今は眠りの誘惑に逆らうことはできなかった。
重い身体を引きずってソファに座りゆっくりと横になる。
「気持ちいい……」
適度に硬さのあるクッションは克哉の部屋のベッドとは比べものにならないほどに心地よく、すっかりアルコールの回った身体はあっという間に眠りの中に引きずりこまれそうになった。

「どうせ寝るなら服を脱げ」

いきなり頭上から降ってきた聞き覚えのある声に克哉はぎょっとして目を開く。
ソファの背もたれに肘をついて面白そうに自分を見降ろしてくるのは、やはり眼鏡をかけた自分自身だった。
「あ……」
それから数秒、眼鏡の奥の鋭い瞳を見つめてから克哉は再び目を閉じる。
「なんだ、せっかく来てやったんだからもう少し喜べよ」
「うるさい、お前に振り回されるのはもうたくさんだ」
顔を覗きこまれているのが気に入らなくて克哉は両腕で顔を覆う。
「眠いんだから放っておいてくれ」
「何を言ってる。お前が望んだことだろう?」
「俺?」
予想外の言葉に腕を下して頭上の自分を見つめる。
「俺が……何を?」
言われていることの意味が分からない。

「自分の望んだことも忘れてしまうとは、君の記憶能力はどうなっているのだ?」
すぐ傍から別の、しかしこれもよく知っている声が呆れた音色を伴って降りかかってきた。
「え?」
慌てて起き上がろうとしたものの、ぐいと肩を抑えられた身体は再びソファに沈み込む。
仕方なく視界に入る腕から視線だけをずらしていくと、克哉が横になっているその頭の隣にゆったりとソファにもたれかかった御堂が座っていた。
意外に強い力で肩を抑え込みながらも涼しい顔に薄らとした笑みを浮かべながら見降ろしてくる。
「御堂……さん、どうして?」
唖然とする克哉の顔を面白そうに眺めていた御堂はゆっくりと上体をかがめてその耳元に囁いた。
「言っただろう、君が望んだことだと」
御堂までもが同じ言葉を繰り返す。
その意味を探るように自分を見下してくる艶っぽい目元を見つめていると、ふいに腿のあたりにずしりとした重みを受けた。
いつの間に移動してきたのか、もう一人の自分が腿の上に腰を下している。
「どけよ、重いだろっ!」
じたばたして御堂と <彼> から逃れようとするものの、両肩と腿を押さえられている状態ではどれだけもがいてみても動かせるのは肘から先と足先くらいのものだ。
「……くっ、おい、どけってば!」
それでもなんとか抵抗しようとする克哉のジャケットの釦を外しながら御堂が溜息をつく。
「素直じゃないのは相変わらずか。本当は好きなくせに」
く、っと喉の奥で小さく笑いながら、さらにネクタイを緩めシャツの前を肌蹴させていく。
「やめてください、御堂さん! ……うぁっ」
御堂の手がシャツに伸びた隙を見て起き上がろうとしたものの、間髪を入れずに今度は <彼> に肩を抑えつけられ再び身体はソファに沈み込む。
「もう離せって、……ぁっ」
露わになった胸の先端をきゅっと摘まれて一瞬息が詰まった。
そんな克哉に唇の端を上げて面白そうな笑みを浮かべた御堂は、まだ硬く小さなそこを優しくきつく捏ねあげて、ときに指の腹で摩り嬲っていく。
「ん……っ」
声を出すまいと唇をぎゅっと引き結んではいるものの、零れてくる克哉の僅かな声の中には既に甘い色が混じり始めている。
その唇を割るように、御堂は空いている方の中指を無理やりねじ込み差し入れた。
ざらりとした熱い舌を捉えてかき回すと、うごめくそれが意思を持ったように絡み付いてくる。
そうして十分に濡れた指を引き抜き今嬲っている胸とは反対の方に触れさせた。
空気で少し冷やされた指に克哉の身体がぴくりと跳ねる。
唾液が塗られた頂は赤くぬらりとした光を帯びてその存在を誇示していく。
「あっ、や……っ!」
さっきまでとは違う濡れた感触に克哉の感覚の全てが小さな先端に集中していくようだ。
「まったく……、もう感じているのか? さっきまでの元気はどうした?」
からかうような御堂の言葉にぎゅっと目を閉じて耳を貸すまいとするものの、緩急をつけた指の動きに翻弄されつい唇が緩んでしまう。
「や、だ……、やめ……っ」
しかし拒絶の言葉でさえ、今は甘く御堂を誘うものでしかなくなっている。
そうして楽しそうに克哉の胸を嬲る御堂となんとか意思を保とうとする克哉の姿を眺めながら、もう一人の <彼> がゆっくりと克哉のそこに手を伸ばしていった。
触れるまでもなくその熱はスラックスの布地を押し上げて欲望を訴えていた。
そこにすっと指を這わせた途端、腰がびくりと跳ね上がり引きつった声が零れる。
「乳首を弄られただけでこんなにしてるのか?」
「あ……、んぁ……っ」
さらに掌で全体をやんわりと覆うようにされると堪えきれない声が甘く零れてとめどなく溢れてくる。
「や、……めろ」
両肩を押さえていたはずの <彼> の手は今や離れて熱くしびれる下肢の上を彷徨っているというのに、既に起き上がる考えも浮かばない克哉は二人の男の優しすぎる愛撫に溺れていくばかりだ。
なのに口から出るのは意味のない条件反射のような拒絶の言葉だけ。
しかしそれはただ御堂と彼を楽しませるものでしかない。
「やめろ、とは笑わせるな」
「そんな意地悪なことを言わないでやってくださいよ、御堂さん」
悶える克哉の上で二人の涼しい言葉が行ききする。
「これでけっこう恥ずかしがりやなんですから」
「そうだな。では、彼が恥ずかしがらずにすむように全てを忘れさせてやろう」
「そうですね、そのために俺たちがここにいるんですから。な、もう一人の <オレ> ?」
少し冷たい指に顎をくいと掴まれて、驚いたようにぎゅっと閉じていた目を開いた克哉の視界には薄らと笑みを浮かべる二人の男がいっぱいに映っていた。
「お前の望みをかなえてやるよ」
「嬉しいだろう?」
次第に近づいてくる眼鏡に自分の欲に濡れた顔が映り込んでいた。
それを唖然と見つめているうちに唇が柔らかく塞がれ、しかしそれはすぐに離れていく。
それに続けてどこからか差し込む灯りを受けて、薄紫に輝く瞳が近づき再び唇を塞がれた。
「ん、ん……っ」
二、三度軽く触れたかと思うと熱く濡れた舌が忍び込み口内をねっとりと舐めまわしていく。
その間にも胸は弄られ下半身の欲望には <彼> の手が揺れている。
やり場のないようにソファをきつく掴んでいる克哉の指先は真っ白になって小さく震えていた。
やがて執拗な口づけに息苦しくなり堪らずに顔を背ける。
「なんで……?」
意外にあっさりと解放してくれた御堂の瞳を見つめながら克哉は呟いた。
「俺が、何を……」
彼らがさきほどから言っている言葉の意味が分からず、けれどそれを聞くと妙に心の奥が疼きを増し騒ぎ出す。

 ―― 望みをかなえてやるよ

望みってなんだよ……。
快楽の波に呑み込まれそうになりながらも、なんとか意識を繋ぎ止めてその意味を探ろうとしてみる。
既に潤み涙さえ零れ落ちそうになりながらも必死に問いかけてくる克哉の瞳に、御堂は一瞬ふわりとした笑みを向けてその目尻にふくらんでいる雫を舐めとった。
「忘れさせてやろう、私たちが全て」
「だから、ど……して……んっ」
御堂の唇は離れても昂る自身を弄ぶ <彼> の手の動きは止まらない。
それでも克哉はそこから這い上ってくる快感を振りきるように御堂の腕をぎゅっと掴んだ。
「いやなこと、全てを忘れたいのだろう? 君がそう望んだのではないか?」
「いや、なこ……と?」

―― あり得ないミスですね、佐伯さん

―― さっき契約を見直したいと連絡がありまして……

―― ドンマイ、克哉。元気出せって、な?
   ほら、飲め飲め!

ふいにいくつもの声が頭の中に反響して記憶を揺さぶり始める。

『どうしてこうなっちゃうんだろう?』
『いくらなんでも情けなさすぎるだろ、俺』
『あー、もう! 今日のこと全部忘れられたらいいのに!』

「あ……」
意味不明だった克哉の瞳に一瞬光が戻った。
「思い出したようだな」
見つめてくる御堂の口元に艶を含んだ笑みが浮かぶ。
「ちが……、あれは、こんな……んっ」
彼らの意図を汲んだ克哉はそれを必死に否定しようと二、三度首を振ったものの、それは御堂の再度の口付けによって抑え込まれてしまった。

やがて <彼> の方からベルトを外す気配が伝わってくる。
「ん……っ」
それを察した克哉はびくりと腰を引こうとしたが腿の上にかかる体重で抑え込まれていてはどうすることもできない。
が、スラックスの上からとはいえずっと擦られ続けたそこは拒否を訴える態度とは裏腹に、さらに上の快感を求めて硬く熱く形を変えてしまっている。
克哉が身悶える衣擦れの音にゆっくりとファスナーが下される音が重なり、それは無意識のうちにこれから訪れる甘く激しい感覚を想像させた。
「もうこんなに濡らしてたのか?」
くっ、と喉の奥で笑う <彼> の声に御堂が唇を離してそちらを見る。
「本当に君はいやらしいことが好きなんだな」
そうして隙を見て起き上がろうとした克哉の肩を押さえて再び胸に唇を這わせた。
「こっちも気持ちよさそうだしな」
こりこりと柔らかく歯を立てられ克哉の唇から小さな悲鳴が零れる。
同時に腰が浮いたところを見計らって <彼> が下着を下ろし、すっかり欲に濡れたそこを顕にしてしまう。
「ひゃっ……ぁ」
ひんやりとした手が熱をおおいゆっくりと動きだす。
「あ、あぁ……、や……っ」
緩くきつく締めて、ときにぬめる先端に指を喰い込ませながら <彼> は克哉の快感を追いたてていく。
与えられるそれをいなす術もなく、克哉の手は胸の上に覆いかぶさる御堂の頭をかき抱き、 <彼> の手に自身をなすり付けるかのようにゆらゆらと腰を揺らし始めていた。
「ずいぶんと感じてきてるみたいだな。こんなに腰を振って……」
「うぁ……っ!」
くい、とその先端に指を喰い込ませた瞬間、克哉の身体は一瞬緊張に硬くなり腰がぶるりと震えた。
吐き出された欲望は <彼> の手を濡らし肩や頬にまで降りかかる。
「ん、ぁ……」
断続的に続く余韻に無防備になった唇からはとろけそうなほどに甘い声が零れおちていく。
大きく上下する胸に顔を寄せていた御堂は克哉が達したのを察してその表情を覗き込み満足そうな笑みを浮かべる。
「いい顔だな」
そうして僅かな笑い声とともにまだ息の収まらない克哉の唇を塞いでしまった。
「御堂さんは本当にキスが好きですね」
下肢の方では <彼> が頬についた白いものを拭いながらが二人の様子を目を細めて見つめている。
「ねえ、御堂さん。どうせならこっちにもキスしてあげてくださいよ」
言うと同時に <彼> は御堂の手を取ってたった今達したばかりの克哉のそれに触れさせた。
僅かに力を失ってはいるものの、御堂の手が触れた途端そこはびくりと震え見るみる硬さを増していく。
「ああ、でもこのままじゃ窮屈ですよね」
そう言うなり解放してくたりとなっている克哉の腰を抱くようにして毛足の長い絨毯の上に引き下ろし、その足もとにひっかかっていた下着とスラックスを抜き取った。
「ほら、これでやりやすくなったでしょう?」
満足そうに克哉の身体を見下し、そのまま御堂に視線を移す。
それを受けて御堂は上着を脱ぎソファの背にかけると一度だけ克哉の唇に軽く触れてから、寝そべるようにして半ば立ち上がっているそこに唇を近付けた。
「あっ……、ん……っ」
ゆっくりと舐め上げただけで力の抜けていた克哉の身体が大きく跳ね上がる。
「や……ぁ、あっ、あ……」
すがるものが欲しいのか、克哉は掴むことのできそうな何かを探して腕を彷徨わせる。
それに気付いた御堂がその手を捉えるとまるで迷子の子どもが甘えてくるように指をぎゅっと絡めてきた。
そんな反応に気を良くした御堂は克哉を大きく呑み込み、舌と口内全体を使って克哉の快感を煽っていく。
が、同時に御堂もその行為によって自らの欲の熱を昂ぶらせていた。
それをじっと見つめていた <彼> の瞳にもその熱が宿りはじめる。
御堂と同じように上着を脱ぎすてネクタイを外すと克哉の欲を収めているその口内に中指を差しいれた。
「あぁ……っ!」
柔らかいものに包まれていたそこにふいに硬い爪の先が触れたせいだろう、異質な快感を感じ取った克哉が悲鳴を上げる。
御堂は差し込まれた <彼> の指にも舌を絡めそこから快感を引き出そうとし始めた。
呑み込まれ舌を這わされ指でまさぐられ、これまでに得たことのない幾重にも重なった快感に克哉は身をよじり首を振り嬌声を撒き散らす。
やがてそこにもう一つの艶やかな声が混じり込んできた。
「ん……、ぁっ」
克哉のものに一心に舌を使っていた御堂が小さく喘ぎ出す。
「そろそろ御堂さんも我慢できなくなってきたでしょう?」
小さく笑う克哉のもう片方の手が御堂の足の間に伸ばされていた。
その指先がスラックスに覆われているさらにその奥、すでに数えきれないほどに <彼> のものを呑み込んできたそこを焦らすようにつつき始めていた。

「なあ、<オレ>。今回は特別メニューにしてやろうか」
ぐるりと指先を回すと同時に克哉が息を詰まらせるような小さな悲鳴を上げた。
その指にはさらに御堂の舌も絡みついてくる。
「ここ」
そう言いながら唾液にまみれた先端をちょこんとつついた。
「一度もいれたこと、ないだろう、お前?」
「んっ、んぁ……あっ」
くりくりとそこを撫でると唾液よりもさらに滑った液体が滲み出て克哉の声を上げさせる。
そうしてもう片方、御堂に回されていた手が少し上に上がり彼のベルトを緩め始めた。
「さ……えき?」
それに気付いた御堂は克哉の欲から唇を離し、何か問いたげな表情で
<彼> を見つめてくる。
克哉のそれと <彼> の指を咥えていた唇は鮮やかに紅く濡れていた。
「御堂さん、そんな顔しなくても大丈夫ですよ」
器用に片手でベルトを外すとファスナーを下げ彼の熱くなったものを取り出した。
それはゆっくりと二、三度擦られただけでぐんと跳ねるように頭をもたげる。
「ねえ、御堂さん。こっちの準備ができるまで……」
既に顕にされた尻の間に <彼> の指が潜り込んでいく。
「ん……っ」
反射的に御堂のそこは指の侵入を防ぐかのように力を入れてぎゅっと締まった。
が、 <彼> は躊躇うことなくぐいと深いところまで指を沈め、やがてゆっくりと動かし始める。
「う……ぁっ、んっ」
敏感な部分を突かれているためか、御堂は拳を握り締め絨毯に頬を擦り付けながら腰を揺らしだす。
御堂の唇から解放されてしまった克哉は、まだ腰の周りに残る快感にぼんやりとしながらも肘で上体を支え少しだけ起き上った。
そうしていつの間にか繰り広げられていたその光景に目を瞠る。
普段の彼からは想像もできないほどに艶っぽいその姿。
エリートでクールなイメージしかなかった御堂が <彼> に後ろを弄られよがりいまや四つん這いになって腰を揺らしている。
そんなあまりに淫らで扇情的すぎる光景に視線は釘づけになってしまった。
無意識のうちにごくりと唾を呑み込むと、それに気付いた <彼> が小さく笑い御堂に囁く。
「ほら、<オレ> が退屈しちゃってますよ? どうします?」
「んぁ……、な……にを……んっ」
<彼> の言葉の意味を把握しかねているように視線を後ろに向けた御堂の唇が一瞬塞がれる。
「あ……」
反射的に舌を絡めようとしたのだろう。
が、あっという間に離れてしまった <彼> の唇に取り残された御堂の舌が虚しく空を舐め上げる。
「御堂さん、あっちの <オレ> はまだ知らないんですよ……」
背後から覆いかぶさるようにぴたりと身体をつけた <彼> は、まるで耳朶を嬲るように口づけながら囁いた。
「ここの、味」
「あぁっ、や、ぁ……っ!」
それまでゆっくりとしていた <彼> の指の動きがふいに激しくなり、さらに数を増やされ抜き挿しを繰り返した。
既に言葉を失っている御堂は、<彼> の指に身体を預けひたすら震えることしかできずにいる。
「おい」
そんな御堂をただ唖然と見つめている克哉に <彼> が声をかけた。
「こいよ。特別メニューだと言っただろう?」
「な……にを?」
克哉の声は細く震えていた。
なのに足の間のものは熱く欲望に濡れてもう充分なほどに張りつめている。
「こい」
硬質のレンズの向こうから薄らと笑みを浮かべる瞳がじっと克哉を見つめてきた。
それは真っ直ぐに心を射抜く強い視線で、克哉は拒否をするように小さく首を振りながらも身体は這うようにして <彼> の傍に近づいていこうとする。
「さあ、こっちだ」
やがてすぐ隣にまで来た克哉の手を取り、<彼> は自分が指を差し入れているその場所にそっと触れさせた。
そうして自分の指を抜き去るのと同時に克哉の指を潜り込ませる。
「あ……ぁっ」
指の入れ替わる感触に御堂の身体が跳ね、克哉はその中の熱く濡れて蠢く襞の感触に息を呑んだ。
初めてのことに半ば放心したようにじっとそこを見つめることしかできない。
「動かしてみろよ、<オレ>。ぐちゃぐちゃに、その指で……」
くっ、と喉の奥で笑った <彼> は克哉の手を包み込むようにして握りゆっくりと動かし始めた。
その動きに反応して御堂の襞がぎゅっと克哉の指を締めつけてくる。
既にその快感に犯されている御堂は、<彼> と違って躊躇いのある克哉の指に物足りなさを感じているのだろう。
息を上げながらもっと奥まで呑み込もうとするかのように克哉の手に腰を擦りつけてきた。
「御堂……さん?」
やがてその痴態と蠢きまとわりつく襞に誘われ克哉がゆっくりと自分の意志で指を動かし始める。
と、克哉の手を握っていた <彼> は口元に満足そうな笑みを浮かべてその手を離したのだった。

「くぅ……っ、んっ」
自分に指を差し入れているのが克哉だと気づいているのか、御堂はさきほどよりも声を押さえようとしている。
それでも耐えきれずに零れる喘ぎが克哉の耳に流れ込み脳内を侵食していった。
「御堂さん」
震える腰に指を進め初めての感触を確かめるように中を探る。
最初は戸惑い躊躇いがちだったその指が次第に快感を突く動きに変わっていくのにつれ、克哉の欲望もその熱さを感じたくてどうしようもないほどに疼いていった。
「御堂さん」
掠れる声で名前を呼びながらこくりと唾を呑み込む。
視線の先には自分の指に犯されながら赤く熟れていく御堂の襞。

 ―― 入りたい……犯したい

そうすることが当然であるかのように、克哉は空いていた左の手を揺れる御堂の尻にそっとあてがい撫でまわす。
そうしてゆっくりと指を抜き両手で包み込むように尻の感触を味わってからその肉を左右に開いた。
深く晒される襞が恥じらうようにぎゅっと窄む。
同性である男のそんな器官が今はなぜか無性に愛しく、克哉は欲に濡れた自分の先端をそこにそっとあてがった。
瞬間、御堂の身体がぴくりと跳ねて緊張する。
それが克哉にも伝わってきて、勝手が分らないこともありそこで動きを止めてしまった。
と、暖かい吐息を感じるほど近くで <彼> の声が耳を掠める。
「一気にいけよ」
「え……?」
克哉がびくりとして振り返るとすぐ傍に <彼> の顔があった。
「ほら、御堂さんを待たせたりしたら悪いだろう?」
「あ……っ」
ぐいと腰を掴まれそのまま前に押し出される。
そこに押し付けられた先端から痺れるような快感が背中を走り抜け、克哉の身体に再び深い疼きが生まれた。
その勢いのまま、克哉は初めての中に腰を進めていく。
思いのほかすんなりと自分を呑み込んでいく襞に驚くのもつかの間、じわりじわりと締め付けられる熱くぬめった快感に克哉は身体中が総毛立つほどのざわつく感覚を味わっていた。
全てを収めた克哉はどうにも動けず、ただじっとしていることしかできなかった。
少しでも動けばあっという間に達しそうで、なのに御堂はそんな克哉からさらに快感を引き出そうとするかのようにきゅうきゅうとその襞を締めつけてくる。
「みど……さ……っ、動かな……で」
「ん……、さえきっ……ぁっ」
唇を噛みしめながら呼ぶ名前はどちらのものなのか。
しかし考えるまでもなく、それは <彼> のことなのだと克哉は理解する。
「御堂さん」
克哉は両の掌を目の前の腰に沿わせ、しばらく尻や背筋を彷徨ったあとゆっくりと前に回してやった。
「あぁ……っ!」
そうして御堂の欲を握りこんだ途端、鋭い声と共に後ろの咥えているそこが過剰に反応して克哉を一気に快感の淵に突き落とそうとする。
「くぅ……んっ」
それをなんとか懸命にやりすごそうとするものの、激しすぎる快感に身体は流される以外のことができなくなっていく。
自分の手の中で震えさらに熱いぬめりを増していく御堂が愛しく思えて、克哉は一気に扱くような動きで快感を与えていった。
それは同時に克哉にも同じだけのものを伴って返ってくる。
気がつけばゆっくりながらも腰を動かし、御堂の奥を幾度も突いていた。
「あ、あっ、あ……っ」
律動と合せて零れる声と揺れる腰が克哉を快感にのめり込ませ余計な思考を排除してしまう。
「御堂さん、御堂さんっ」
「さえき……っ」
自分が犯している男の口から出るその名前に不思議な嫉妬を覚えた。
それが克哉の神経を侵し御堂を激しく責め立てさせる。
嫉妬を伴った異様な興奮はあっという間に克哉をぎりぎりまで押し上げ、同じように前と後ろからの甘い責苦に耐えきれなくなった御堂の限界と重なって一気に快感を極めた。
これまでに経験したことのない解放に克哉の身体はいつまでも震え続け、自分の下ですっかり吐き出してくたりと絨毯に崩れている御堂の身体を抱きしめる。
それでも御堂の襞はときどき軽くひくつき、やんわりとした快楽の余韻を克哉に与えていた。
荒い息を抑えることもせず、ただ抱きしめる身体の愛しさに酔いしれる。
が、そんな甘い空気の中に驚いたような鋭い声が走った。
「……ひゃっ」
一瞬ののち、その息を吸い込むような声が自分のものであり、さらに身体の中にある違和感の存在に克哉は気がついた。
「や……っ」
果てたばかりの欲望はまだ御堂の中なのに、その自分の中に <彼> の指が入り込みゆっくりと探り始めていたのだ。
「やめ……、んぁ!」
それは知り尽くしたように克哉の中で蠢き腰の奥に再び渦巻くような熱をもたらし始める。
御堂の中で若干力を失っていた欲望も次第に張りつめていき、その変化を感じ取った御堂が小さな吐息とともに身体を震わせた。
<彼> の指に踊らされるように無意識に腰を揺らす克哉の動きがそのまま御堂に伝わっていくらしく、やがて絨毯に沈んでいた彼の唇からも細い喘ぎが零れ始めた。
二人の熱に浮かされた声音が交錯し身体が絡む淫らな音が室内に響いて行く。
<彼> は思い通りに乱れていく彼らに目を細め口端ににやりとした笑みを浮かべた。

「は……ぁ、あ、あ、やっ」
今やすっかり <彼> の指に溺れている克哉はそれが自分のいい所に当たり続けるように、そして御堂からの快感をも欲して目の前の腰をしっかりと掴み欲望を叩きつける。
それを受ける御堂も絨毯に頬を擦りつけ無意識に腰を上げ、克哉の動きに合わせるかのように身体を揺らしていた。
「気持ちいいだろう、<オレ>?」
かり、と耳朶を噛まれて身体が跳ねる。
「こっちも随分といやらしくなってきたしな」
「あぁ……ぅっ!」
最奥まで伸ばした指をくいくいと曲げて一番のポイントを突かれた途端、背骨が痺れるほどの快感が全身を駆け抜けて克哉の身体を硬直させた。
「くぅっ、……ぅ」
それでもぎりぎりのところで解放に至らなかった快感が欲望の先端に渦巻き克哉を御堂の背中にしがみつかせる。
「なんだ、そんなに御堂さんに抱きついていたいのか? 随分と仲がいいじゃないか。ねえ、御堂さん?」
<彼> は空いているもう一方の手を伸ばして御堂の腹部にゆっくりと触れた。
「んぁ……っ!」
臍の周囲を軽くなぞっただけで御堂は震え克哉の欲望を締めつけた。
それに連動するように克哉の襞が <彼> の指を噛み快感の連鎖が回りはじめる。
「御堂さん。その色っぽい顔、もっと見せてくださいよ」
「さ……えきっ」
自分に向けられた言葉に反応したのか、ぎゅっと目を閉じていた御堂の瞼が開き熱に浮かされた視線が <彼> に向けられる。
「こっちを向け、御堂」
低く囁かれる命令口調に御堂の視線が一瞬揺らぎ、しかしその言葉の意味を汲み取ったかのように彼は克哉を呑み込んだまま身体をぐるりと反転させた。
とろとろに濡れた欲望は臍につきそうなほどに張りつめ震えている。
それを隠すこともなく身体を晒す御堂の潤んだ瞳は光を浮かべ、ただひたすらに快楽を求めるものとなっていた。
その視線を捉えるように克哉は御堂の両頬に手を添え唇を合わせる。
キスが好きだと言った <彼> の言葉は本当なのだろう、舌を捉え絡めた途端、御堂の襞がきゅっと締まり震えて喜ぶ。
思いきり腰を突いて貪り頂点を極めたいという衝動といつまでもこの熱い快感を味わっていたという欲望に弄ばれながら、克哉は無心に舌を味わい流れ込んでくる唾液を飲み下す。
と、ふいに後ろに差し込まれていた指が引かれそこに空虚が生まれた。
「あ……」
思わず御堂から唇を離し <彼> の方に振り向いた瞬間。
そこに焼けるような痛みを感じた。
「あぁっ!」 
無意識に目の前の御堂に縋りつき痛みに耐えるかのようにぎゅっと抱きしめる。
そんな克哉を見つめながら <彼> はゆっくりと奥まで進みその全てをもう一人の自分に収めてしまった。
「どうだ、<オレ> ?」
うなじに薄く滲む汗をぺろりと舐めて <彼> が囁く。
「前と後ろ、同時にできて、最高だろう?」
「待っ……!」
反射的に <彼> から逃れようとした克哉だったがどうすることもできず、むしろその動きが大きな快感となって自分自身に跳ね返りあっけないほど簡単に達してしまった。
予想外に訪れた絶頂に半ば茫然としながら御堂にもたれかかる。
「一人だけで楽しむのはずるいんじゃないか? ねえ、御堂さん?」
そうしてくくっ、と笑いながら御堂の頬にゆっくり手をかけた。
それに誘われて御堂も克哉の肩越しに身を乗り出すようにして手を伸ばし <彼> を求める。
克哉の耳のすぐそばで御堂と <彼> の唇が触れ合い、すぐにそれは深い口づけへと変わり淫らな音を響かせ始めた。
「やっ、も……あぁ……んぁっ!」
互いに唇を絡める身体の動きが繋がった部分を通して克哉に伝わり、吐き出したばかりの欲望はあっという間に熱く硬く御堂の中で力を取り戻していく。
「ん……ふっ、さえ……き……」
吐息の隙間から零れる御堂の声は次第に切羽詰まっていき呼吸もさらに早まっていた。
<彼> と唇を合わせるために克哉にぴたりと身体を押し付けているせいで、自分の張り詰めた欲が克哉との腹に挟まれ擦られ互いの肌をぬらりと濡らしていく。
「みどう……さん、みど……」
堪らず克哉も目の前の肩に夢中で舌を這わせ吸い上げ噛みつき腰を突き動かした。
それに合せるかのように <彼> が背後から克哉を突き、淫らな連鎖に三人はそれぞれの快感を追いかけどっぷりと呑まれていく。

荒く湿った息遣いに強請る声が混じり濡れた音が部屋を満たす。
意味をなさない言葉の中、幾度果てても欲望はすぐに膨れ上がり誰かを求めずにはいられなくなる。
克哉はほんの小さな隙間さえ作ることを怖がるかのようにぴたりと彼らに肌を合わせ、そんな終りの見えない奈落のような快感に全てを堕としていった。

 

 

 

「これで何度目ですかねぇ、あの方がここにいらっしゃったのも」
「さぁな」
「おや、冷たいですね。あの方も貴方だというのに」
「あれが俺? ……ふん」
「それにしても一つづつ記憶を失くしていって、こんなことが続いたらあの方もこの先どうなることやら」
「…………」
「一言、忠告してさしあげては?」
「あんたも随分優しいことだな」
「いえいえ。私は貴方が悲しむ姿を見たくないだけですよ」
「俺が?」
「ええ」
「都合良く逃げてばかりいるやつがどうなろうと、俺は一切気にしないさ。それに……」
「それに?」
「そんなに弱いつもりもない」
「それはあの方のことですか? それとも、貴方ですか?」

「……さあな」

 

 

2008/03/17〜2008/03/26 連載
& 2008/04/19
 


 

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