年に一度の誕生日くらい、自分がいい目をみたっていいだろう。
祝ってくれるというのなら主役は間違いなく自分なのだから。
そんな考え方を子どもっぽいと言われればそれまでだが、普段の情事を振り返えるにつけそれくらいのことを主張する権利は間違いなく自分にはあるはずだと御堂には思えるのだった。
リビングのローテーブルにはワインとチーズ、そしてテイクアウトのオードブル。
これだけならいつもの光景だが、今日はそこに真っ白な生クリームに鮮やかな赤色を添えた苺のケーキが添えられている。
御堂の誕生日のために佐伯が用意したものだ。
さすがに好みを知り尽くしているだけあって、普段はあまり口にしないケーキ以外は全てが御堂のお気に入りのものばかりだ。
が、今の御堂の視線はテーブルを超え、その向こうにある光景に注がれている。
そこにはグラスを置いて気だるそうにソファの背にもたれかかっている佐伯の姿があった。
佐伯の様子に変化が現れたのは食事を始めて30分ほどしてからだった。
口数が減り料理にも手をつけず、やがてソファにもたれる頃にはくたりと目を閉じその胸は浅く早く上下し始めるほどになっていた。
「大丈夫か?」
その様子を見つめていた御堂が声音だけは心配げに言葉をかける。
「だるい……おまえ」
やっと小さく呟いた佐伯が薄らと目を開けて問いただすような視線を送ってくる。
「なにか、したな……?」
軽く頭を振って身体を起こそうとするがそれさえも叶わず、佐伯は再度ソファに深く沈み込んでしまった。
「今日は私の誕生日だ。祝ってくれるのだろう?」
そう言って口元に小さな笑みを浮かべた御堂がテーブルを回り込み佐伯の隣に腰を下ろした。
ゆっくりと腕を伸ばし、指先でもって力なく晒された喉元をたどりシャツのボタンを一つ二つと外していく。
「心配することはない。そんなに強い薬ではないからな」
肌蹴させたシャツを開き触れるか触れないか程度の動きで指が鎖骨から胸を彷徨う。
ときおり肌に爪を立てればはっとしたように緊張する身体が御堂を楽しませた。
「ただし、アルコールと一緒に摂取すると多少効果が増すらしいがな」
胸の先を摘み軽くきゅっと捻る。
「……っ」
小さく呻く程度ではあるものの、感じているらしいその声に御堂の鼓動が跳ね上がった。
ますます息が上がっていく佐伯の様子に促され御堂の手が大胆に眼前の身体を這いまわっていく。
合わせて薬のせいもあるのだろう。
佐伯の熱はあっという間に昂りその欲の形を現し始めていた。
「さすがに反応がいいな」
くっ、と喉の奥で小さく笑った御堂がそこに手を伸ばし昂りつつあるものをやんわりと包み込む。
と同時に投げ出していた足を閉じようとしたらしい佐伯だったが、それさえもできないほどに身体は力を失っているようだ。
そんな様子に御堂の中の征服欲が頭をもたげ始める。
いつも理性を失ってしまうほどに感じさせられて溺れさせられてしまう行為を佐伯にもしてやりたい。
この男を快楽の奈落に突き落としてしまいたい。
そんな衝動が果たして征服欲なのか、あるいは極限の奉仕なのか、その境は曖昧だった。
ベルトを外し前をくつろげるとすっかり勃ちあがった欲が晒け出され佐伯は僅かに腰を震わせる。
御堂はその脚の間にひざまづくと躊躇いなくぬらりと濡れたそこに唇を寄せていった。
「ん……っ」
舌先を硬くして先端を舐めると途端に身体が跳ね上がり佐伯が呻く。
蕩けた蜜をすくい取り再度それを塗り込める丹念な蠢きに両腕で抱えた脚から小さな震えが伝わってきた。
喘ぐというほど明らかなものではないが、その息遣いからも佐伯が十分に感じていることが分かる。
そんな彼を前に御堂の心に悪戯心が湧き上がった。
ふと振り返り背後のテーブル上のケーキに手を伸ばす。
そうして指先にすくい取った生クリームを佐伯の欲望の先に塗りつけた。
その異様な感覚に気づいたのか多少抗議めいた呻きが聞こえたもののそれ以上の抵抗を受けることはない。
薬がすっかり身体に回っているのだろう。
甘いクリームを舐めとりながら視線を上げてみれば、そこにはいつになく切ない表情で眉根を寄せる佐伯がいた。
いつも強気な彼らしくない気もしたが、だからこそそんな年下の恋人に愛しさが増しその想いと同調するように身体中が熱くなっていく。
そんな自分をを自覚しながらもっともっと快感を与えたいと舌を蠢かし舐め口内に含み込んだ。
その反応を確かめたくてちらちらと頭上の表情を盗み見ながら行う口淫は御堂の想いだけでなく身体をも昂らせ鼓動が早鐘のようにがんがんと頭の中に響いていく。
口での行為などこれまでにもしたことはあるのに、こんなふうに身体の奥から湧き上がる熱を感じるのは初めてだった。
御堂の欲もすっかり硬く形を成している。
「くぅ……あっ」
やがて張りつめた佐伯の欲も既に限界らしくその唇からやっと喘ぎらしい声が漏れてきた。
それを聞いた御堂がほくそ笑んで一旦佐伯から離れる。
そうしてすぐに戻った彼の手にはひらりとしたピンク色のリボンが握られていた。
ケーキの箱を飾っていたラッピング用のリボンだ。
それを佐伯の根元に、熱い奔流を遮るようにきゅっと結びつける。
「んっ……ば、かっ」
重たげに首を巡らし自分の身体にされたことを目にした佐伯が掠れ声で抗ったものの、それによってもたらされるこの先の快感を知っている御堂はさらにクリームをすくい取りねっとりとぬめった先端に擦りつけていった。
「熱いな。クリームがすぐに溶けていってしまうぞ」
柔らかく雫となった滴りを舌で受け止めながら御堂が囁く。
「君がせっかく買ってきてくれたケーキだからな。無駄にしてはもったいない」
半身振り向き、今度はクリームと一緒に彩りを添えていた赤い果実を摘まみ取った。
それを片手で支え安定させた佐伯の欲の上に慎重に乗せ「見てみろよ」と喉の奥に笑いを込めて視線を誘う。
「なかなか綺麗なものだろう?」
薄らと開いた瞼の奥の瞳は快楽のためかまるで焦点が定まっていないかのようだ。
この赤と白のコントラストを認識できているかも甚だ怪しい。
自分でも呆れるようなことをしていると分かってはいたが、御堂自身がすでにこの遊びの虜となっていた。
どくどくと響く鼓動と身体中が震えるほどの興奮に理性はどこかに追いやられてしまう。
やがて熱に蕩けたクリームと共に苺が滑り落ちる直前、御堂はそれを含み柔らかく租借してさらに佐伯の欲望をも捉える。
「くぅっ……、いいかげ……みど……っ」
口内で転がされる砕かれた果実の不規則な刺激に耐えかねたのか、佐伯の手が御堂の頭に置かれ弱々しく髪を掴んで引っ張っていた。
しかしそれが今の佐伯には精一杯の抵抗なのだろう。
もっと感じろとばかりに御堂は舌の動きを早め先端から溢れる蜜を吸い取ろうとする。
が、その瞬間。
「……っ」
意外な強さで髪を引かれ呻き声を出したのは御堂の方だった。
気がつけば顎の下に指を差し入れ上向かされて鋭い佐伯の視線を受けていた。
その瞳はさきほどまでの快楽に溺れていたそれとは全く違い、まるで射るように御堂の驚きに見開かれた瞳を覗き込んでくる。
「本当に楽しそうだな、御堂?」
にやりとした笑みが口元に浮かび、それが近づいてきたかと思うと御堂の唇の端についたクリームをぺろりと舐めとった。
「佐伯……?」
唖然と問いかける御堂に、その口内に残っていたクリームと果実を味わうかのようなゆっくりとした口付けを与えながら佐伯はくつくつと喉の奥に笑いを納めている。
唇が離され、やっと現状を理解した御堂は慌てて佐伯から離れようとした。
しかし思うように身体に力が入らずぺたりとテーブルと佐伯の脚の間に座り込んでしまう。
「な……?」
予想外の事態に問いかけるように佐伯の表情を見つめれば、いかにも楽しそうな笑みを浮かべ自分を見下ろしてくるその視線にぶつかった。
「そろそろ効いてきましたか?」
「なに、を……おまえ……」
息が上がり口を開くことさえままならない。
「まさかあんたに薬を使われるとは思わなかったな」
御堂の肩越しに手を伸ばした佐伯はその背後にあるグラスを取り半分ほど残っていたワインを一気に流し込んだ。
「なぜ……?」
今の佐伯はまったくの正常でさきほどまでの様子は微塵もない。
「始終あんたのことを見てるんだ。気付かないわけがないだろう?」
形勢が逆転していることにやっと気づいた御堂だったが既に身体はいうことをきかなくなっていた。
そんな御堂の両脇に腕を差し入れ自分の隣に引き上げると同時にゆっくりと押し倒す。
そんな流れにされるがままの御堂だったが瞳だけは必死に何かを問いかけていた。
「まあせっかくだから俺も少しは飲ませてもらったがな」
佐伯の指が御堂のシャツを肌蹴させていく。
「まさかあんたがこんな奉仕をしてくれるとは思わなかったぞ。……本当に好きなんだな」
「あぁっ」
すっと脇腹を撫で上げられただけで背筋に電気のような痺れが走りそれが手足の末端までぴりぴりと伝わっていく。
「今度は俺の番だな。今までにないくらい楽しませてやるよ」
胸の先端を軽く弾かれただけで身体は弓なりに反り甘い叫びが部屋に響いた。
「でもその前に……」
佐伯は御堂の手をとり限界まで張りつめた自身にあてがわせる。
「こっちの責任を取ってもらわないとな」
震える睫毛の下、必死に焦点を合わせようとする御堂の唇から震える声が零れてきた。
「ふり……だった、のか……」
「ん?」
小さな声を聞き取ろうと佐伯がその口元に耳を寄せる。
「かんじて……のは、えん……ぎ、か」
眉根が寄せられているからだろうか、見つめてくる瞳はやけに切なく震えて見えた。
しかし佐伯は御堂の言葉の意味に気づきふっと笑みを漏らす。
「思いきり感じさせてもらったさ、今までにないくらい……」
そうして与えられた口付けは意外なほどに優しく、幾度も御堂の唇を啄んでは甘噛みしてまるでいい子だとあやされているような気分に陥らせる。
「だから、早くなんとかしてくれ」
触れたままの唇から漏れた言葉を呑み込んだ御堂は精一杯の力を出して重たい腕を佐伯の背中に回した。
自分の血流の音さえ聞こえてしまいそうな興奮と溢れてくる熱にはもう抗いようもない。
「さえ……き」
それがやっと口に出せた御堂の誘いの言葉だった。
2008/09/29
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