御堂が克哉の誕生日を知ったのは一年の空白を経て再会してから半月ほどが過ぎた頃だった。
年が明けて、二人で今後のことについて話をしていたときのことだ。
ふと克哉がなんの脈絡もなく「免許……」と呟いたのがきっかけだった。
「免許?」
「ああ、忘れていた。いい加減更新に行かないと……」
「誕生日、今月だったのか?」
「いや、12月だ」
「12月? 何日?」
「31」
「大晦日か」
「ああ」
「なんだ、言ってくれれば……」
「お祝いでもしてくれたか?」
「まあ……せっかくだしな」
「ふぅん、じゃ次に期待だな」
そんな話をしたことを、自分の誕生日を翌日に控えた御堂はふと思い出していた。
さすがにこの歳になればそれほど浮かれるということもないのだが、それでもやはり特別な日だということに変わりはない。
これまでは付き合っている相手がいれば二人で過ごし、そうでないときは大学時代の友人たちが集まっていつものワインバーで祝ってくれていた。
そんな友人たちが今年も御堂の誕生日に集まろうと連絡を入れてきてくれたのは一週間前だった。
彼らは克哉のことも二人で会社を興したことも当然知ってはいたが、特別な関係にあることなど知るよしもない。
きっと一人で過ごすことになるであろう御堂に誕生日と遅ればせながら独立のお祝いをしようと言ってくれだのだ。
しかし、御堂はそれを断ってしまった。
『お、誰か特別な相手ができたな?』
そんな興味津々の声に御堂は仕事の予定が全くつかないのだと言っておいた。
もちろん嘘だ。
自分の特別な日を克哉と過ごしたい。
不覚にもそう思ってしまったのだ。
しかし克哉は御堂の誕生日を知らない。
克哉の誕生日が話題にのぼったとき、あっちから聞いてもこなかったし自分からも言わなかった。
きっと彼にとっては誕生日などその程度のものなのだろう。
対してそれにこだわっていたりする自分に少々悔しさを感じるものの、克哉にそんな想いを悟られていなければそれはそれでよかった。
きっといつもと同じ休日を過ごすのだろう。
いつもより遅い時間に起きてブランチ。
思い思いに好きな時間を過ごす午後。
その日の気分によって外食だったり自分たちで作ったりケータリングだったりの夕食。
少しアルコールを入れてから抱き合う夜。
せっかくだから夕食には少し力を入れよう、克哉に気づかれない程度に素材を厳選してメニューも考えて、ワインだけは値が張ってもいいものを買って……。
一人、ソファにもたれてそんなことを考えているとつけっぱなしにしていたテレビからいつも見ている夜のニュース番組のテーマ曲が流れてきた。
分かっているのについ時計を見てしまう。
午後9時30分。
克哉は本多たちと飲みに行く約束をしたとかで、出先から直接店に行くと言っていた。
帰ってくるにしても遅くなるのだろう。
別に帰ってくるまで起きているつもりもないが、二人でいることが当然になってしまったここ数ヶ月のせいか、一人でいるとなんとなく時間を持て余してしまうようになっていた。
ぼんやりとニュースを見ているが、伝えられるのは既に知っているものばかりで目新しい情報は何もない。
読みかけの本でも読もうかとソファを立ち上がったところでテーブルの上の携帯が着信を知らせてきた。
―― 佐伯?
ディスプレイの名前にほんの少しだけ鼓動が跳ねる。
仕事中ならなんでもないのに、プライベートの時間になると途端にこうなってしまう。
「はい、御堂だ」
『ああ、俺だ』
「なんだ?」
どうせ遅くなるとかそういうことだろうと思いながら御堂は本を取りに寝室へと向かう。
『すぐに東慶ホテルまで来い』
「は?」
ぴたりと足を止めて聞き返す。
「東慶ホテル? そんなところで飲んでいるのか?」
『飲んでいるわけじゃない。いいからすぐに来い』
「……まったく、すぐにといっても私も飲んでしまったからタクシーだ。少し時間がかかるぞ?」
『ああ、だが急げよ。ついたらフロントで俺の名前を言え』
「わかった」
通話を切って一つ溜息をつく。
どういうことか説明くらいしろと思いながら、御堂は寝室は寝室でも本ではなくクローゼットを開けて急いで着替えをした。
週末のせいか少し時間がかかったものの、予想外に早くついたタクシーでホテルに向かう。
国外からの来賓も宿泊するようなホテルだから御堂もそれなりの服装を選んでいた。
これで酔って帰れなくなったから迎えに来いとかだったら怒るぞ、などと思いつつ言われた通りにフロントで自分と克哉の名前を告げる。
「御堂様ですね。承っております」
穏やかな声で応えた女性は少し離れて待機していたベルスタッフを呼び二言三言で用件を告げた。
「どうぞ」
と促されその案内に従う。
そのまま客室用のエレベーターに乗ったことで行き先はバーやレストランではないことを悟った。
どういうつもりなんだか、と内心で呆れつつもあらぬ期待が膨らんでくる。
ホテルの部屋で克哉が待っているとなれば当然そういうことになってしまうだろう。
早まりそうな鼓動を抑えるように軽く深呼吸をして、御堂はドア上の階数表示を見つめていた。
―― ん?
やがて表示が20階を通り越したところで眉を顰める。
仕事で利用したことはあっても宿泊経験はないホテルだったが、それでも20階以上は特別室扱いになっていることは知っていた。
―― 何を考えているんだか……。
呆れつつも楽しげな笑みが口元に浮かぶ。
ポンという軽い音とともに止まったエレベーターから出てみれば、明らかにそこは一般の客室階とは異なる雰囲気に包まれていた。
広いエレベーターホールの正面にはここの空気を壊さない程度に控えめに花が活けられている。
「こちらです」
促されてスタッフの後についていきながら軽く周囲に視線を巡らせたが、やはり部屋のドアがずらりと並んでいるという光景は見られなかった。
少し歩いて両開きの扉の前で止まる。
スタッフの押したチャイムにそれを開けたのはやはり克哉だった。
「思ったより早かったな」
「お前が急げと言ったんじゃないか」
「食事は?」
「もう済ませた」
話をしながら克哉はスタッフに用はないというように軽く頷いてドアを閉める。
すっかり寛いでいたのか、克哉は上着を脱ぎネクタイも緩めてボタンもいくつか外していた。
エレガントで上質という言葉がぴったりの内装と広い空間に御堂の気分も一気に緩んでいく。
「どうしたんだ、こんな部屋をとって」
さすがにこういった部屋は初めてで、あちこちに興味深い視線を走らせながら御堂が訊ねた。
克哉は既に窓際に行きぴたりと閉じられていたカーテンを開けている。
「テーブルの上のそれ」
カーテンを全て端に寄せてから克哉は振り返ってテーブルの上を示した。
そこには落ち着いたブルーのラッピングに赤いリボンが飾られた細長く薄い箱が置かれている。
それを見た瞬間、御堂の心臓がとくんと跳ねて胸がざわついた。
「あんた、明日誕生日だろう」
「ああ……」
「プレゼントだ。開けてみろ」
ゆっくりとテーブルに近づきそれを手に取る。
この形状だとおそらくネクタイだろう。
「誕生日は明日だぞ? 気が早いな」
ひどく喜んでいることに気づかれたくなくて、御堂はからかうような言葉でそれを隠す。
丁寧にラッピングを取ってブランドマークの箔押しされた蓋を開けてみると、思ったとおりそれはダークブラウンのネクタイだった。
「ありがとう」
シルクらしいそれは御堂の指に心地よい手触りを伝えてくる。
「それを持ってこっちに来いよ。あと電気も消して」
「電気?」
「ああ、部屋の電気を消した方が夜景は綺麗だからな」
言われた通りに電気を消してネクタイを手に窓際に立つ克哉の側に向かう。
そうして隣に立った途端、肩を抱かれてゆっくりと顔が寄せられてきた。
ほとんど条件反射のように目を閉じて唇が触れてくるのを待つ。
二度、三度、軽く触れ合わせてから克哉が囁いた。
「少し早いが誕生日おめでとう、御堂さん」
「ありがとう。……よく知っていたな」
「あんたのことなら何でも」
どうして知ったのかと少し気にはなったが今はそんなことなどどうでもよかった。
もう一度唇を合わせて、今度は次第に相手にのめり込んでいく。
息をつくのも苦しいほどの深い口付けを繰り返し、やがて唇を離した御堂はなんとか息を整えようとした。
「夜景、を見るんじゃなかったのか?」
「俺はさっきまで充分に見ていたからな。別に邪魔はしないから、見たければ見ていろ」
御堂の上着を脱がせその場に落としネクタイも外す。
代わりに克哉は御堂の手にしていたネクタイを取りそれを締めななおした。
暗い室内ではほとんど黒にしか見えないそれを満足げに眺めてふっと笑みを浮かべる。
「あんたのネクタイはこれから俺が選ぶ」
「どういう……」
「あんたは俺のものだってことだ」
そうして御堂を窓の方に向かせるとその身体を背後から抱きしめた。
耳やうなじに熱く湿った刺激を受けて御堂はぞくりと背筋を震わせる。
目の前に広がる夜景は確かに美しかったが、そんなものを見ている余裕など既に失いつつあった。
身体をまさぐる手を無意識のうちに捉え、ここに口付けてほしいとでもいうように首筋を反らせる。
克哉に身体を明け渡すためのそんな行為に自然と御堂の身体も熱を帯びていった。
さっき結ばれたばかりのネクタイを外されシャツも肌蹴られていく。
素肌を這う克哉の手はいつもより熱く、多少汗ばんでいるのか吸い付くようにしっとりとしていた。
「ん…ぁ……」
自分たちの部屋以外での行為は久しぶりで、ましてやこんな窓際ということに興奮を煽られているのを御堂は自覚していた。
確かに多少の躊躇いは覚えたのだが、ビジネス街を少し離れたこのあたりではこのホテルほど高い建物はない。
カーテンを開けていても外から見られるという心配はなかった。
そんな状況が御堂をどんどん解放していく。
「もうキツそうだな」
胸のあたりを彷徨っていた手が御堂のベルトの下あたりに伸ばされた。
「んっ」
すっかり膨らんでしまったそこは僅かな刺激にも反応してびくりと跳ねる。
無意識なのか、腰が快感を求めて克哉の手に押し付けられるように揺れていく。
「触ってほしいか?」
耳朶を噛みながら囁くと御堂はほんの小さく頷いた。
「今日は素直だな。……いいさ、あんたのために用意した部屋だ」
ベルトを外してファスナーを下ろす。
下着と一緒にズボンを落してやると小さく喉を鳴らして背後の克哉を抱きしめるように腕を伸ばしてきた。
そのまま半身をひねり唇を求めてくる。
御堂には多少辛い体勢かもしれないが、克哉は振り向いた顎を捉え唇を重ねていった。
同時に熱く硬い御堂の欲を覆い扱いていく。
快感を感じながらも唇を塞がれているため苦しげに呻くのだが、それでも御堂は克哉にぴたりと身体を預けて離れようとはしなかった。
「んぁ…んっ、さえ……も…っ」
ぎゅっと自身を嬲る手を掴んでくる。
「いきそうか?」
「ん……っ、もうっ…だめだ……」
さすがに、このままここでというのは躊躇われるのだろう。
それまで寄せていた身体を離そうと身をよじり始める。
「逃げるな。ここでいけばいい」
「そ…んな……っ」
「大丈夫だ」
御堂を抱きしめていた克哉は腕を解いてその前に回りこみ膝をついた。
躊躇うことなく御堂のそれに唇を寄せる。
「佐伯っ」
予想外の行動に驚いて腰を引きそうになったが、そのときには既に御堂の熱は克哉の口内に納められていた。
「あぁっ……あっ、さえ……っ」
強すぎる刺激に思わず克哉の髪を荒々しく掴んでしまう。
「や……ぁっ…もう……っ」
切羽詰まって震える御堂に、いけとばかりに吸い上げてその先端を舌でぐいと抉ってやる。
「ひぁ…、んぁ……っ」
一瞬身体を硬直させ、御堂は克哉の頭を抱きしめるような格好で果てていった。
びくびくと腰を震わせ甘い声が零れていく。
そうして全てを克哉の口内に放った御堂は崩れるようにその場にへたり込んでしまった。
そんな彼を先に膝をついていた克哉が抱きしめる。
「大丈夫だっただろ?」
ぐったりと胸に沈んでいる御堂の髪を梳きながら問うと「ばか」と小さな答えが返ってきた。
そのまま息がおさまるまで待ち、やがて落ち着いてきたらしい御堂を胸から離して克哉は近くに落ちていたプレゼントのネクタイを拾い上げた。
御堂の両手を取りゆっくりとその手首にネクタイを巻きつかせていく。
「佐伯?」
はっと気づいた御堂の目がそれと分かるほどに怯えの色を濃くした。
「そんなに怖がるな」
不安げな声に克哉は手をとめて怯える瞳を見つめた。
そのまま一つに束ねた手首を持ち上げて、宥めるように指先の一つ一つに唇を寄せていく。
「あんたは俺のものだ」
恭しくいただくように克哉はその手に額を当てて囁いた。
「どこにも行くな」
「佐伯……」
こんなストレートな言葉を聴くことになるなどここに来るまでは思ってもいなかったことだ。
胸が痛み息が詰まりそうになる。
「行くわけないだろう」
自分の声とは思えないほどに掠れていた。
「あのとき言っただろう。……責任を取れと」
そうして自由の効かない手ではあったものの、それで克哉の顎をあげさせて唇を寄せていく。
互いに触れさせ啄ばむだけの軽い口付けは、それでもけだるい快感の残る身体に深い満足感を与えていった。
僅かなフットランプだけの灯りの中、広いベッドの上で克哉の背に腕を回していた御堂の手首はまだネクタイで縛られたままだった。
軽いリボン結びをしただけのそれは、その気になればいつでも簡単に解いてしまうことができる。
けれど御堂はそれを解こうとはしなかった。
この戒めを解くことができるのは克哉だけなのだと、決して自分からそれをするつもりはないのだと伝えたかった。
自ら身体を開いて全てを晒し克哉を受け入れて、それでもまだ足りないほどにこの男が欲しくてたまらない。
苦しいほどに御堂の中は克哉で占められているのにもっともっとと身体が強請ってしまう。
「さえき……、さえ、き…っ」
「ん?」
互いに荒い息の中で言葉を交わす。
「ネクタイ、……解いてくれないか」
「痛むか?」
「ちが…っ、んぁっ……」
「だったら、どうして」
「シャツが…邪魔だ、それに……」
ネクタイで縛られたせいで脱ぐことができず、ボタンの全て外されたシャツはそのまま御堂の身体にまとわりついていた。
「それに……なんだ?」
言葉の続きを促しながら御堂の手を取ってネクタイを外してやる。
そうしてほの暗い中で手首に跡がついていないかを確認し、ないとわかるとちゅ、と可愛らしい音を立ててそこにキスをした。
自由になった手で御堂は克哉を抱きしめる。
「それに……縛られていたら抱きしめられないだろう」
ぎゅっと腕に力を込めてその耳元で囁く。
「そうだな」
克哉もシャツから解放された御堂を抱き起こして自分の上に座らせた。
「うぁ……っ、ばか、急に……っ」
いきなり体勢が変ったことで受けた刺激に身体が大きく跳ねる。
それでも自由になった手で克哉を抱きしめていることに満足した御堂は嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「御堂、時計見られるか」
「ん?」
克哉が視線でサイドテーブルの時計を示す。
首を巡らせそれを見ると、針は12の位置でほぼ揃っていた。
見ているうちにも秒針が進み、やがて10の数字を過ぎていく。
「12時だ」
時計から御堂に目を移し克哉が言った。
「誕生日おめでとう」
「あ……」
その言葉でやっと意味を理解した御堂が頬を緩めた。
「ありがとう」
どちらからともなく唇を合わせる。
「日付が変った時、あんたとこうしていたかった」
「…………」
さまざまな想いが御堂の胸に溢れてくる。
お前がそんなロマンティストだとは思わなかったとか、いつもこんなに素直だったら可愛いのにとか、言ってやりたいことは次々に浮かんできた。
けれど御堂はそれらを全て呑み込んでぎゅっと克哉を抱きしめる。
そうして、ただ一言「ありがとう」と呟いた。
そんな甘く穏やかな時間も克哉が再び動き出したことで一気に快楽の底に沈んでいく。
言葉にならない快感に喘ぎ互いにしがみついて求め合う。
ただただそうして相手の存在に翻弄されながら、二人はそれぞれの意思と身体を解放していった。
薄っすらと覚醒する意識の中でなんとなく窮屈に感じる身体を動かそうとしたものの、どうにも思い通りに動くことができなくて身じろぎをしてみる。
次第に目が覚めていくにつれて、自分が背後からしっかりと抱きしめられているのだと気がついた。
そっと視線を向けてみると、すぐ側に僅かに唇を開いたまま寝息をたてている克哉の顔がある。
抱き合ったままの状態で眠ってしまったらしく眼鏡をかけたままだ。
―― まったく……。
そっと眼鏡を外してやる。
サイドテーブルに置ければいいが手を伸ばしただけではそこまで届かない。
かといってここから抜け出せば克哉を起こしてしまいそうでそれもできなかった。
結局、少し離れた場所に眼鏡を置いてもう一度克哉の方を窺う。
「あ……」
眠っていると思っていた克哉が目を開けてじっとこちらを見つめていた。
「なんだ、起きたのか」
「ああ」
おはよう、と言いかけた唇はぐいと抱き寄せられて塞がれてしまった。
しばらくそうして口付けを交わした後で克哉は「喉が渇いたな」と呟いた。
「ああ、あっちに水差しがあったな。持ってこよう」
だが起きかけようとした御堂を克哉が遮る。
「いや、俺がいく」
と言った克哉だったが、起き上がった途端小さく呻いて頭を抱えてしまった。
「どうしたっ?」
辛そうな様子に御堂も慌てて起き上がり克哉の顔を覗き込む。
「いや……なんでもない」
しかし掠れた声と眉間に寄る皺はなんでもないという状況ではない。
「具合でも悪いのか?」
「いや、多分……」
「多分?」
「……二日酔いだ」
「はぁ?」
克哉の肩にかけていた手から一気に力が抜けた。
「二日酔いだと?」
「ああ」
「そんなに飲んでいたのか?」
「本多たちとは久しぶりだったからペースが狂った……」
「…………」
昨夜、御堂が部屋に来たときの様子はいつもと全く変らなかったが、よくよく思い起こしてみればいつになく素直で優しかったように思う。
―― もしかして酔っていたせいなのか?
どこにも行くなとか俺のものだとか日付が変った時こうしていたかったとか、思い出しただけでも身体が甘く疼くような言葉が脳裏を巡る。
酔った上での戯言とも思えなかったが、まったくそうでもないとも言いきれない。
隣で眉間を擦っている克哉をちらりと見て、御堂は小さく溜息をついた。
それに気づいた克哉が「ん?」と視線を向けてくる。
「いや、……水を持ってくる」
しかし動こうとする前に御堂は肩をつかまれベッドに押し付けられていた。
「酔ってはいたが意識ははっきりしていたぞ?」
「なんだ、いきなり」
「あんたが呆れた顔をしているから。察するに夕べ俺が言ったことが全部アルコールのせいだと思っているんじゃないか?」
「そんなことは……」
あまりに図星で否定する言葉があやふやになる。
そんな御堂の様子にクっと喉の奥で笑った克哉は足元の方に放置されていたネクタイを取り寄せた。
そうして昨夜と同じように御堂の手首に緩く巻きつけはじめる。
「あんたは俺のものだ。どこにも行くな」
さらにその手首に唇を寄せて強く吸い上げた。
鮮やかな鬱血の跡が残る。
「こうして、あんたと一緒にいたいからな」
まっすぐに見つめてくる瞳に御堂が笑みを見せた。
縛られた手を克哉の頭にくぐらせ引き寄せる。
ちょうど目の前にきた肩のあたりに唇を寄せて同じように強く吸ってやった。
「だったら俺が言ったことも覚えているか?」
「ああ」
「ならいい」
もう一度、同じ場所に吸い付いて白い肩に残った色をより濃いものにした。
そのまま鎖骨を通り喉元を通り、唇にたどりついてそこを軽く噛む。
「なんだ、朝から欲情してるのか?」
唇はされるがままにまかせて克哉も御堂の身体をまさぐり始める。
「そうらしいな」
「手は、このままでいいのか?」
「ああ。……なんなら解いてくれって言わせてみるか?」
いつになく挑戦的な御堂に克哉が一瞬目を丸める。
言った方の御堂も多少の無理をしていたのか、クっと小さく笑い出した。
互いにくすくす笑いながら唇を合わせる。
重いカーテンはほぼ完璧に外の光を遮っていたが、細い隙間から漏れるそれはかなり強いものになっていた。
ふと御堂は今何時なのだろうと思ったが休みの今日はそんなことを気にする必要もない。
チェックアウトにしても克哉が何も言わないところを見ると今日一日くらいは抑えてあるのだろう。
それにしても……。
克哉の誕生日には何をしてやろうかということが頭を過ぎった。
何か秘密裏にコトを進めて驚かせてやろう。
それにしても大晦日とは部屋の取りづらい日に生まれたものだ。
今からじゃ予約だって難しいかもしれない……。
「どうした?」
ふと目を覗かれて視線が合う。
「いや、別に……」
「そうか?」
「ああ」
そうして御堂は秘密の企画を抱えたまま、克哉の唇を誘うようにゆっくりと目を閉じた。
2007/09/17
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