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とりあえず。
事後のお持ち帰り交渉が成立して一緒にダンテの家に行くことになったバージルですが、困ったことに服が見あたりません。
耳と尻尾がついているからには獣なのですが、見た目はどうしたって人間なので途中で誰かに見られたら大変です。
ということで、とりあえずダンテは自分のコートを着せてやりました。
が、これが大間違い。
滑らかな白い肌に深紅のコート。
その美しいコントラストがバージルを妖艶に見せてしまったからダンテも堪りません。
しかもそれが自分のコートとくれば愛しさは余計に募ります。
「バージル」
ぐいと引きよせて抱き締めると案の定抵抗をしてきましたが腕力ではダンテの方が数段上。
もがくうちにもあちこちを撫でられて、身体の奥に残っていたさっきの快感が疼き始めてしまいます。
どうせなら夜更けてからの方が人目にもつかないだろうと勝手な言い訳を考えて、ダンテは抗議の中にも甘い吐息が混じり始めたバージルを手近にあった大きな木に押し付けてしまうのでした。
夜半過ぎ。
無事に家へと戻ったダンテは、とりあえずバージルをお風呂に入れてあげることにしました。
尻尾を見るにネコ科っぽいからもしかして水とか嫌いかと心配しましたが、聞いてみれば森の奥にある温泉がお気に入りだったとのこと。
それならよかった、でもさすがにシャワーの使い方は知らないだろうと、これまた自分に都合の良い理由をつけてダンテは一緒にお風呂に入ることにしました。
とりあえずは埃を落とそうとシャワーを出してバージルの身体にかけてあげます。
その水の勢いに半分爪を出して緊張していたバージルですが、首のあたりにかけられるお湯の温かさにだんだんそれも緩んできたようで、しばらく経つと気持ちのよさそうな表情になってきました。
続けてダンテはボディソープを手に取りそれをバージルの身体に塗りつけていきます。
ぬるりとした感触に驚いて抵抗をしたバージルですが、
「汚れた身体では部屋も汚れてしまうからな」
と言う計算づくのダンテの言葉にそれもそうかと大人しくなってしまいました。
目上は敬う、他人には迷惑をかけないというのがバージルの基本のようです。
しかし。
ぬるぬるする上に泡まで立ってきたバージルの身体を滑るダンテの手はついつい怪しい動きをしてしまいます。
わざと胸の先を掠めてみたり、脚の付け根ぎりぎりのところを撫で上げてみたり。
場所によっては思わずぴくりと反応が返ってきたりすることも……。
「もういいだろう、いい加減に離せ」
温かさのせいか恥ずかしさのせいか、少し赤い顔をしたバージルが爪を立ててきました。
森の中では少し無茶をさせてしまったからなと、素直に手を離したダンテはシャワーで泡を洗い流すと奇麗になったバージルを抱き上げてバスタブに腰をおろします。
「だからどうして一緒に入るんだ!」
「一緒に入った方が時間も短くて済むから電気代の節約になる」
当然逃げ出そうとじたばた始めたバージルですが、やはりここもダンテの言葉に頷かざるをえないようです。
全ては年の功。
そんな背後から抱っこされているような姿勢に妙に落ち着かない様子のバージルでしたが、適度に温かいお湯はやはり気持ちのいいものらしくしばらくは静かにダンテの腕の中に収まっていました。
けれどダンテからしてみれば薄らと桃色に蒸気した肌が目の前にあるのに放っておくことなど到底できません。
無茶をさせたと反省したばかりですがちょっとくらいならと、その首筋にちゅっとキスをしたり舐めてみたりとちょっかいを出してはバージルに肘鉄を喰らっていました。
そんなふうに遊んでいるうちにのぼせそうになったバージルを再度抱き上げてお風呂を後にしたダンテは、とりあえずバスタオルにくるまったバージルを暖炉の前に残して服を探しに行きました。
普段から裸で寝ているダンテの家にパジャマなどというものはありません。
ここは無難にシャツだよなとクローゼットからそれを取り出して戻ってみれば、バスタオルを暖炉の前に置き去りにしたバージルは窓際から夜空を眺めていました。
やはり全裸でいることになんの抵抗も感じていないようです。
暖炉の温かいオレンジ色がバージルの滑らかな肌と薄ら盛り上がる筋肉に陰影をつけて、そのしなやかな身体を美しく照らし出していました。
そんな光景につい目が離せなくなってしまったダンテですが湯上りで髪も濡れたままのバージルをいつまでも裸で放っておくわけにはいきません。
既にダンテの気配には気づいているはずのバージルですが、その光景を壊したくないダンテは静かにゆっくりと近づいてその背中にシャツをかけてやりました。
「なんだ、これは?」
振り向いたバージルは少し眉根を寄せて自分の肩のあたりに視線を落とします。
いかにも迷惑そうな顔をしていますが、それを無視したダンテは少し強引に袖を通させてから釦をはめていきました。
「頼むからあまり裸でうろうろするな」
「ん? なぜだ?」
バージルにとっては裸=エッチ、という思考はないようです。
もちろんダンテにもそんな子どもじみた単純な考えはありませんが、相手がバージルとなったら話は別。
今日出逢ったばかりだというのに、もうすっかりその魅力にどっぷりと浸かってしまっていたのですから。
「また我慢できなくなるぞ?」
そう言って抱きよせながら耳のあたりにキスをするとバージルの身体がぴくりと跳ねます。
「風呂では我慢してたのに、また裸でうろうろされたら堪らないだろう?」
「……っ」
吐息がかかるように囁きながらちろちろと耳の中に舌を伸ばしてやると、バージルは慌てたようにきゅっと肩を竦めてダンテの身体を押しのけようとしてきました。
けれどもちろんそれごときで離れるダンテではありません。
耳が弱いのは既に承知していますから舐めたり食んだり好き放題です。
「きさまっ、さっきからなんなんだ! こんな時期に発情期か!?」
「ん?」
バージルの口からさらっと出た発情期などというちょっと刺激的な言葉にダンテは思わずその顔を見つめてしまいました。
「……もしかして」
少しでも身体を離そうともがくバージルにダンテは聞いてみます。
「お前、発情期とかあるのか?」
「あるに……きまってるだろっ、離せ……っ」
「ほう?」
あまり表情も変えず軽く答えたダンテですが、内心ではその言葉が悪戯心をくすぐり始めていました。
自分が大変なことを口走った自覚のないバージルは相変わらず離せ離せとダンテの腕の中でもがいています。
と、隣の事務所として使っている部屋から電話の音が聞こえてきました。
既に夜中ですが、ダンテの仕事に時間はあまり関係ありません。
ちっ、と小さく舌打ちしたダンテは
「少し待ってろ」
とバージルの髪にキスをしてその場を離れました。
少し長くなった電話を済ませて戻ってみれば、窓際にも暖炉の前にもバージルの姿はありません。
一瞬どきりとしたものの、直後、思いきり部屋の隅っこに白いものが丸まっているのが目に入ってきました。
それがバージルだと分り思わずほっと溜息をついてしまいます。
さすがに警戒心の解けない姿に少し寂しい気持ちはしますが、とりあえずはこの家を自分の寝床と決めてくれたらしいことにダンテの心には温かいものが満ちていきました。
「バージル」
傍に膝をついて丸まっている背中をそっと撫でてやります。
本当ならこんなふうに知らない場所で簡単に寝入ることもないのでしょうが、さすがに今日は何回もダンテの相手をして疲れ果ててしまったようです。
ゆっくりと耳の後ろあたりを撫でても「ん……」と僅かに身じろぎをするだけで目を覚ます気配はありません。
どうせなら温かい暖炉の前の方がよかったのですが、せっかく眠っているのを起こしてしまうのも可哀そう。
ダンテは寝室から毛布を取ってくるとそれをバージルにかけてやり自分も一緒にその中にもぐり込みました。
眠っているにも関わらず、眉間に少し皺が寄っているのはまだまだ緊張が解けていない証拠です。
それが少しでも解れればいいと、眉や目の上に軽いキスを落として抱きしめます。
そのまま静かに髪を撫でていると無意識のうちにも人肌の温かさに気づいたのか、バージルはダンテの胸にすりすりと頬を押しつけてきました。
それはほんの数回だけでしたがダンテの心を満たすには十分で、それどころかあまりの可愛さに欲情しそうになるのを抑えるのが大変なことになってしまいました。
新しい寝床を確保したバージルと、ちょっとでも気を抜けば襲ってしまいそうになる自分を必死で抑えているダンテ。
こうして二人の初めての夜は片やゆっくり静かに、片やじりじり悶々と更けていくのでした。
2009/11/19
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