「おいで」
と手を引かれたバージルはダンテと一緒にソファに腰を下した。
すぐに肩を抱かれそっと引き寄せられる。
何か用があって呼ばれたはずなのに、一向に口を開かないダンテにどうしたのだろうと思いながらもバージルはされるがままに身体を預けていた。
屋敷で仕事をするようになってからはほとんどこうした触れ合いがなかっただけに、心が小さい頃を思い出したようにほっとして気持ちが緩んでくる。
少しだけダンテの肩に頭を預けて目を閉じていると肩に回されていた手がゆっくりと髪を撫でていった。

「何か用があったんじゃ……」
「ん?」
けれどダンテは素知らぬふりで髪に幾度かの口付けを落としてはまた髪を梳いてくる。
「用といえば用だが。……手を出して」
何が用件なのか分からずにいるバージルの右手を取ったダンテはその掌を上向かせゆっくりと指の付け根あたりを押し始めた。
そこから掌の窪みやふくらんだ親指の下あたりまでを、強弱をつけながらマッサージをするように押したり摩ったりしていく。
「ダンテ、何を?」
戸惑うように取られた手を見つめながら訊ねてみるが、ダンテは何も答えずに今度は指の一本一本を丁寧に揉み解すように扱いていた。
やがて温まってきた掌が赤味を差し指先がじんとしてくる。
その先端に溜まっていくくすぐったさと僅かな痺れがバージルを少しずつ落ち着かなくさせていった。

すっかり温かくなったバージルの掌を、それでもダンテの指はまるで壊れ物でも扱うかのようにゆっくりと優しく、ときに力を入れて解していく。
時おり指がツボにあたるのだろう、その僅かな痛みにバージルはぴくりと手を震わせ眉を顰める。
するとそれに気づいたダンテは執拗にそこを抑えては徐々に力を込めていった。
最初は痛かったその部分がやがて心地よいものを感じ取るようになっていく。
そんな変化を不思議な面持ちで見つめながら、いつしかバージルはすっかりダンテに身体を預けぼんやりとその指先を見つめるようになっていた。

と、ふいに掌が持ち上げられその指先に唇が当てられる。
驚いたバージルは思わず手を引っ込めようとしたのだが、しっかりと捉えられた手は離すことが叶わなかった。
しかも人指し指を口に含まれその先端をざらりとした舌がなぞっていく。
すっかり敏感になっていた指に与えられた刺激はバージルの背筋を駆け抜け全身へと広がっていった。
ぞくりと肌が粟立ち身体が震える。
「ダンテ……っ」
抗議のつもりで言った言葉には自分でも驚くほどの甘い溜息が混じっていた。

ダンテの舌はやがて指を滑り付け根のあたりに降りてくる。
そっと開かせた指の間に舌を這わされた瞬間、バージルは息を呑んで身体を硬くした。
「や……」
思わず零れた言葉に、ダンテは付け根に唇を寄せたままそっと上目づかいにバージルを見上げてくる。
「感じたか?」
言っている意味が分からずバージルは戸惑いがちにダンテを見つめ返した。
性的な経験など皆無のバージルにとっては、くすぐったさも痺れも疼きも快感も全てがいっしょくたで訳が分からない。
そんな少し心細げな表情にダンテは小さく苦笑するとまた指の間に舌を這わせ始めた。
「んっ」
「声は我慢しなくていい」
「え?」
「出てくる声をそのまま出せばいいんだ。抑えるな」
そう言って指の先端を軽く噛まれたバージルはびくりを肩を震わせ「あ……」と小さな声を漏らした。
「そう。そうやって声を出せばいい」
「ん……ダンテ」
いつの間にか掌ばかりか身体中が暖かくなり僅かに息が上がっていた。
生まれてくる熱を持て余すようにバージルはダンテの胸に額を擦りつけていく。
頭の中にどきどきと鼓動が刻まれ頬だけが異様に熱くなっていった。

やがてバージルの手を離したダンテは震える背中に腕を回しそっと抱きしめてくる。
その大きな腕にほっとしたように一つ息をついたバージルは、顔と同じほどに熱を孕んだ指先でジャケットをぎゅっと握りダンテの胸に頬を押し当てた。
しかし宥めるように静かに背中を摩っていた手がその両頬を捉え顔を上げさせる。
近づいた唇は額に触れ瞼に落ち、ゆっくりと鼻の上に移っていった。

そうして、ちゅ、と小さな音を立てて離れた唇は耳朶に触れその輪郭を舌先がなぞり始める。
同時に暖かい吐息を吹き込まれバージルは思わず首を竦めて身を硬くした。
「力を抜いて」
しかし囁かれる言葉にさえ、得体の知れない焦れたくすぐったさを覚えて身体は余計に緊張してしまう。
「バージル、肩の力を抜いてごらん」
無理、とでもいうようにバージルは小さく二度三度と首を振る。
「大丈夫。ほら、ゆっくりと息をして……」
言葉に合わせるようにダンテの手が肩を撫でていった。
しばらく続くその動きに、やがてバージルの緊張も薄れ肩に籠っていた力が抜けていく。
それを見計らったかのようにダンテの舌が耳に忍び込んできた。
「んぁ……っ」
思わず上がった甘い声にダンテは舌先を硬くして、さらに奥まで探るように差し込んでくる。
「や、ダンテ……」
訴えるようにぎゅっと握った指先がダンテのジャケットを引っ張った。
「緊張しなくていい。力を抜いて」
握りしめてくるバージルの指をそっと捉えて離させると、今度はそれがダンテの指に絡みついてくる。
「くすぐったいのか? それとも気持ちいい?」
「そんなの、わからな……んっ」
舌の濡れた音が脳内にまで響いて次第にバージルの思考を曇らせていく。
意識とは関係なく、焦れるように身じろぎをする身体が熱を増す。
「ダンテ……や……」
「大丈夫、ただ身体を預けていればいい」
そうしてダンテはもう片方の耳に手を当ててそれを塞いだ。
もとより目を閉じていたバージルは外からの音をも遮断され、闇の中でその身体に響くのは耳から流れ込む濡れた音と自分の息遣いだけになってしまった。
そこに時おりダンテの声が入り混じる。
「力を抜いて、好きに声を出せばいい」
「ん……も、くすぐったい……」
「くすぐったい?」
こくこくと頷くバージルだったが、それは単に快感を表す言葉を知らないだけにすぎないことをダンテも分かっていた。

「気持ちいい、って言ってごらん」
「ど……して」
「それが一番いいから」
音と言葉が行き場を失ったようにバージルの中に溜まって熱を上げさせる。
「言えるだろう?」
「……ち、い……」
小さく動いた唇がうわ言のように僅かな言葉を紡ぎ出した。
「ん? もう一度」
「きもち、い……」
声が吐息とともに震える。
それを聞いたダンテはわざと音を立てるように舌を使って執拗に耳をくすぐった。
「もう一度言って」
「ん……、きもち……いい」
「それでいい」
ふいに耳を解放されて冷やりとした外気が入り込んできた。
バージルは目を開いてぼんやりとダンテを見つめる。
それを見つめ返してくるダンテの青い瞳には穏やかな笑みが浮かんでいた。

けれどたった今、自分の身に起こったことを理解しきれていないバージルは戸惑ったように俯いてしまう。
その顔を上げさせるようにそっと両頬を包んだダンテはこつりと額を合せて囁いた。
「今度はキス」
そうして半ば開かれているバージルの唇の上をダンテの指がゆっくりとなぞっていった。
その触れるか触れないかの曖昧な指にいたたまれなさを感じて視線を逸らす。
「目を閉じて」
どうすればいいのか分からずにいたバージルにその言葉は救いだった。
けれど目を閉じてしまうと一度離れた指が今度はどこに触れてくるのか分らずに、自ずと神経は過敏になっていく。
唇に意識が集中してしまいほんの僅か指先が触れただけでバージルの身体はぴくりと小さく跳ねた。
これまで自分の唇など幾度となく触ってきたはずなのに、ダンテに触れられただけでこれほどまでに焦れったいくすぐったさを感じてしまうのが不思議でならない。

「力を抜いて」
気がつけばバージルは首を竦めきゅっと唇を引き結んでいた。
思わず目を開けてダンテを見上げる。
伸ばされた指がゆっくりと唇の端を滑っていくくすぐったさが小波のように肌に広がり、さっき解されて温かくなっていた指先を痺れさせた。

やがて指が離され両頬をそっと包まれる。
どうしてもダンテの視線に耐えられず俯いたバージルだったが頬を抑える手に僅かに上向かされてしまった。
そうして鼻先が触れるほどに顔が近付いてきたあたりで慌てて目を閉じる。
直後、唇に触れた乾いた感触はそれがキスだと認識する間も与えないほどすぐに離れていった。
え? と目を開けてみれば焦点が合わないほど間近にダンテの閉じられた瞼がある。
「ダ……」
けれど名前を呼ぼうとした唇は再び触れてきたそれに遮られた。

本当に触れるだけのキスを幾度も幾度も繰り返される。
しかしやがて息苦しくなってきたバージルはぎゅっとダンテの腕を掴んで顔を逸らせてしまった。
「はぁ……」
酸素を求めるように大きく胸を上下させる。
と、再び頬を捉えられ視線が合わされた。
「息は止めるな。鼻か、唇が離れたときにすればいい。それに……」
ちゅ、と音を立てて鼻先にキスが落とされる。
「唇の力は抜いておけ、少し開いてるくらいがちょうどいい」
そうしてまた触れてくる唇にバージルは目を閉じた。
幾度となく繰り返されるキスに次第に慣れてきたバージルはダンテの言葉通りそっと肩の力を抜いてみる。
ときおり唇にかかるダンテの温かい吐息に、キスをしていても呼吸はできるのだと気がついた。

音もなく静かに触れ合うだけのキスはやがてバージルの緊張を解き、それどころかほっとするような安心感さえ与え始めていた。
気がつけばすっかりダンテに身体を預け与えられるキスの感触に浸っている。
「バージル」
唇を離され見つめられるが、今度は視線を逸らすこともなく吸い寄せられるようにその青い瞳を見つめ返すことができた。
けれど唇の離れてしまったことが少し寂しく感じる。
「キスは気に入ったか?」
まるで見透かしたかのようにダンテは僅かに目を細めてバージルの顔を覗き込んできた。
正直に答えるのもどこか恥ずかしく、しかし小さく頷いてみせるとダンテは「そうか」と満足そうな吐息とともにバージルをその胸にそっと引き寄せた。

「今度は俺にキスをして」
しばらく髪を撫でられながらダンテの胸に頬を当てていたバージルはそんな言葉に僅かに顔を上げる。
「できるだろう?」
囁く声に絡め取られたかのようにバージルの手がさっき自分がそうされたと同じく、けれど少し躊躇いがちにダンテの両頬に添えられた。
同時にダンテが目を閉じる。
端正なその顔を少しだけ見つめて、バージルはそっと唇を近づけた。
さっきまでのキスを思い出すように、触れては離れてのキスを数回繰り返す。

やがて唇を離したバージルは不安そうにダンテの顔を覗き込んだ。
ゆっくりと目を開いたダンテは再びバージルを引きよせ今度はぎゅっと抱きしめる。
「バージル」
深い吐息とともに呼ばれた名前はなんだかひどくくすぐったくて恥ずかしかった。

 

 

2009/11/04, 11/08


まだ従者の頃かと思われます
このバージルが成長してハロウィンで女装の執事になりますw
 

back  home