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通りの店が開くまで喫茶店でのんびりと朝食をとっている間、バージルは妙に落ち着かない思いを感じていた。
いわゆる初体験の直後に、その相手とこうして食事をしていることが気恥ずかしくてたまらない。
カップを持つ指先やサンドイッチを食む唇を見ては昨夜のあれやこれやを思い出し身体の奥が痺れるような感覚を味わう。
しかもこの時間、店内にいる客たちはほとんどが常連のようで何人かがダンテに声をかけてはその直後、バージルに目を向けてくるのだ。
こんな朝からダンテと一緒にいる自分をどう見ているのか、もちろんそんな関係だとは思わないだろうがバージル自身は「そんな関係」を一番知っているだけに思わず視線を伏せて俯いてしまう。
「どうした?」
たった今も帰り際の客に声をかけられ挨拶を返したダンテが俯き加減のバージルの顔を覗き込んできた。
つい慌ててしまいカップを持つ指がぴくりと震える。
「なにが?」
「腹減ってるんだろう?」
言われてみれば目の前のプレートはサンドイッチもサラダもほとんど手つかずだった。
「べつに、なんでもない」
そう答えてサンドイッチをつまむが一度高鳴り出した鼓動はなかなか収まらない。
店内の暖房のせいもあるのだろうがやたらと身体が熱くて、せっかくのお勧めサンドイッチの味もほとんど分らない始末だった。
バージルにとってはいたたまれない時間が過ぎて、やっと食料品や雑貨の店が開く頃。
外に出てみれば雪は相変わらずちらついていたが人の通りも多くなっていた。
その中でせっかくのクリスマスだからと食材の買い出しに挑んだものの、結局は本格的な料理などできない二人はメインをいつものデリカで買い、子どもや女性で賑わう店でクリスマスケーキを選ぶに終わった。
しかもそのケーキ屋でもダンテは常連らしく、可愛いエプロンをした女性店員がバージルを見ては「あら、息子さん?」などと言うものだから思わず「ちが……っ」と言いかけて自分のその声の大きさに気づき慌てて口を噤む羽目に陥った。
しかしそんなバージルを見てダンテはやけに嬉しそうな笑みを浮かべている。
それもなんとなく癪にさわって、バージルはショウウィンドウに並ぶ色とりどりのケーキから視線を逸らせて溜息をついた。
それからあちこち店を覗いて部屋に戻る頃には昼をかなり過ぎた時間になっていた。
まさかダンテと出かけてこれほどまでに疲れるとは思っていなかったバージルは、まだ慣れない部屋ながらもドアを閉めて荷物を降ろした瞬間心底ほっとした吐息をついてしまった。
が、それもつかの間、いきなり腕を掴まれ引き寄せられたかと思うと唇を塞がれていた。
唖然としている隙に舌が入り込んできて唇の裏や歯列を舐め上げていく。
いきなりのことに驚いたものの、しばらくすると口内をまさぐられるようなキスに躊躇いながらもバージルは応え始めた。
背中をゆっくりと撫でていくダンテの手が外出で緊張した気持ちを静かに解していく。
最初、少し乱暴だったキスはバージルが応じ始めたせいかゆっくりとしたものになっていった。
舌を絡められ、なおかつ柔らかい粘膜をつつかれるとじんとした痺れが腰のあたりに溜まっていく。
「んっ、ふ……ぁ」
時おりひどくくすぐったい場所を舌先になぞられたバージルはぴくりと肩を竦ませては唇を塞がれながらも小さな声を上げた。
宥めるように背中に当てられていた手も明確な意志をもってコートの上から腰や尻のあたりを撫でまわしていく。
やがて濡れた音を残して唇が離されると、すっかりダンテのキスに翻弄されていたバージルの息は僅かに上がっていた。
「昨日の続き」
耳元への軽いキスとともに囁かれた言葉にバージルは一気に緊張して身体を強張らせてしまった。
もちろん部屋に戻っていずれはそうなると分かってはいたものの、こんなすぐにしかも昼間からとは思ってもいない。
「ちょっと……先にこれ片付ける」
慌ててダンテを押しのけたバージルは下に置かれていた荷物を手にそそくさとキッチンへ逃げ込んでしまった。
昨夜の記憶とキスの余韻も手伝って身体中がざわついてしまうのをなんとか堪えながら、食材を冷蔵庫にしまいバージルの分などと言って買ったカップや歯ブラシなどをとりあえずカウンターの上に置いていく。
けれど荷物などあっという間に片付いてしまい手持ちの袋が空になったところで案の定、後からやってきたダンテに背後からぎゅっと抱き込まれてしまった。
「可愛いな」
耳の後ろに囁かれたせいで暖かい息がかかり背筋がぞわりと粟立つ。
「なにが……っ」
「喫茶店でもそうだった。赤くなったりして、何を考えてた?」
「別に何も考えてない」
外にいる間の自分の心の内を見透かされているようでひどく恥ずかしかった。
少し身をよじってみるが、がっしりと抑え込まれた身体はそう簡単には離せそうもない。
そうしているうちに気がつけばダンテの手がバージルのコートの釦を外し始めていた。
「ちょ……ダンテ!」
「ん?」
「こんなの……自分で脱げる」
しかしそう言って自分で釦を外そうとしたバージルの手をダンテは握って抑え込んでしまった。
「駄目だ、俺が脱がせる」
いちいち耳元で囁かれるたびに湿った吐息がかかりバージルの身体の熱を上げていく。
ゆっくりと一つひとつ外されていく釦を見つめながら、その指先の動きにさえ既に感じ始めてしまいそうだった。
やがてコートと上着が落とされて今度はシャツのボタンに手がかかる。
「ダンテ……」
この先の行為を覚悟はしたものの、さすがにここでシャツまで脱がされてしまうことに抵抗を感じたバージルはなんとかそれを止めようとダンテの手首を握りしめてみた。
が、「大人しくしてろ」と囁かれた挙句、まるでお仕置きのように耳朶を少し痛いくらいに噛まれてしまう。
「ひぁっ……」
思わず情けない声を上げたバージルは止めようとして握り込んだ手首に、今度は逆に縋るような思いでぎゅっと力をこめた。
釦の全て外されたシャツの間から忍んできた手が少し冷たくてバージルはぶるりと身体を震わせる。
それに気づいたダンテは小さく苦笑して「悪い」と言ったものの手を離すつもりは一向にないらしい。
耳や首筋にキスを受けながら脇腹や臍の窪みをくすぐられ、バージルはその焦れったさに身をよじっては自分でも意識しないうちに腰を揺らして熱い吐息を零し始めていた。
本当はダンテにしがみ付きたいけれど背後から抱きすくめられている状況ではそれも叶わない。
仕方なく前に回されている腕を掴んでみるがそれでもどこか心もとなかった。
「ん……っ」
ふいに胸の先を摘まれてバージルの身体が跳ねた。
少し視線を下げてみれば、ダンテの指先が小さなそれを撫でては摘み弄んでいる。
その光景がひどく卑猥に思えてバージルは慌てて目を閉じてしまった。
「ダンテ……」
続く中途半端な愛撫にバージルの身体の中にこもった熱が次第に荒れて大きくなっていく。
しがみつくこともできず立っているのも足がおぼつかない感じがして、こんなことならいっそのこと早くベッドに連れて行ってほしかった。
けれどもちろんそんなことを口にすることもできず、バージルは気づいてほしいとばかりにダンテの腕を掴む手にぎゅっと力を込める。
が、ダンテはまるでバージルの肌を味わうかのようにゆっくりと手を這わせ胸をくすぐっては顕わになった肩や首筋に舌を這わせていた。
そんな愛撫を受け続けて、バージルの下肢も欲望の熱に痛いほどに押し上げられていく。
「ん……ぁ」
懸命に声を抑えようとはするものの、それとは裏腹に腰が勝手に揺れてはダンテに押し付けられていた。
「触って欲しい?」
脇腹にあった手がふいにそこを覆いやんわりと包んでくる。
「……っ!」
思わず息を呑んで腰を引いたバージルだったが、すぐ後ろにいるダンテに阻まれて逃げることは到底できない。
「もう硬くなってる」
ゆっくりと、しかし強くなっていく愛撫にバージルの脚が震え立っていることさえ辛くなってくる。
「やだ……だん、て……んっ、ぁ……」
「気持ちよさそうだ」
耳に舌を差し込まれ、喉がひくつき掠れた悲鳴があがった。
同時に膝の力が抜けたかのようにバージルの身体ががくりと沈む。
それを慌てて受け止めたダンテはそのまま抱き上げるようにしてバージルを傍のキッチン台に座らせた。
「ダンテ、なに……」
いきなりのことに慌てているバージルの膝を開くようにダンテが身体を割り込ませてくる。
そのまま抗議の言葉を塞ぐようなキスをしながら、ダンテの手はバージルのベルトを外し始めた。
ファスナーを広げて手を差し入れられ、唇を合わせながらも甘い悲鳴が喉から漏れる。
「ん、ふ……ぁっ」
舌を絡める濡れた音に追い立てられるようにバージルの熱が身体中を巡り、ダンテに触れられている一点に集まっていく。
次第に快感に呑まれていく中でダンテに手を伸ばし縋ろうとするものの、二の腕あたりまで落ちていたシャツがその動きを阻んでいた。
それを取り払うかのように小さくもがいていることに気付いたのか、ダンテはバージルの邪魔をしていたシャツをさらりと落とすと同時に自分の上着も脱ぎ捨てる。
そのまま片腕で抱きしめキスを続け、もう片方の手は既に蕩け始めている下肢をさらに煽るようにまさぐっていった。
「ぁ……んっ、も、だ……て!」
荒くなる息を抑えきれなくなったバージルは唇を離してダンテの肩に顔を埋める。
ぎゅっとしがみついて額を擦りつけ、熱い吐息を放ちながらダンテの名前を幾度も呼んだ。
「もう出そうだな」
囁かれる言葉に素直に頷いて縋る腕に力を込める。
「イかせてやるからもっと声を出してごらん」
「や……ぅっ……」
「大丈夫、恥ずかしくないだろ……ほら」
とろりと濡れた先端に軽く指先が喰いこんでバージルの身体が大きく跳ねた。
「はぅ……っ、あぁ、ん……ぁっ」
「もっとバージル」
容赦なく、けれどポイントを外した愛撫にバージルが激しく首を振って悶え始める。
無意識のうちにダンテに腰を擦りつけ極めるための快感を追い始めた。
「好きだよ、バージル。もっと声……」
囁かれる言葉に浸されるように頭の中がダンテの声で満たされていく。
「あ……んっ、だんて……も、ぁっ」
「そうだ、すごく可愛い」
「そんな、ちが……」
「可愛いよ、バージル」
同じ言葉を繰り返して、ダンテは抱きしめる腕に力を込めると同時に一気にバージルを追い詰めていった。
多少は理性が残っているものの、既に身体は快感に呑まれて我慢などできないほどになっている。
「や……、くぅ……っ、んぁ……!」
与えられる過ぎた刺激にバージルの熱は呆気ないほど簡単に限界を極めダンテの手を熱く濡らしていった。
そうして余韻にまだ息が収まりきらないバージルの耳にダンテが小さく囁く。
「続き、いいだろう?」
僅かに身じろぎをしながらも小さく頷くとバージルはダンテの首に鼻先を埋めた。
ゆっくり二、三度と髪を撫でられたかと思うといきなり抱き上げられ、その衝撃に少し驚いたバージルは一瞬目を上げてダンテと視線を絡ませる。
しかしすぐに目を逸らしてしまうバージルに、ダンテはわざと派手な音と立ててその額にキスをした。
2009/11/10
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