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「ベルナディア公ダンテ様とお連れ様のお着き」
朗々と謳い上げるようなゲスト到着の案内にホールのざわめきが一瞬にして静まった。
弦楽団の奏でる音楽だけが楽しげに流れる中、仮装舞踏会に集まった貴族たちの視線はホール入口に佇む一組のカップルにじっと注がれている。
そんな周囲の様子を気にとめるふうもなく、吸血鬼を気取って黒いマントを羽織ったダンテは連れの女性の手を取ってホストの方へを足を運んだ。
握手をして二言三言、言葉を交わした頃合いを見てウェイターが飲み物の乗ったトレイを差し出してくる。
そこから二つのグラスを選んだダンテが女性を促して一旦壁際にまで下がったところでホールには再びお喋りや衣擦れのざわめきが戻ってきた。
それでも人々の興味が逸れたわけではない。
プライベートパーティには滅多に顔を出さないダンテが、ましてやイベント色の強いハロウィンの仮装舞踏会に出席するなど初めてのことだ。
しかもパートナーに女性を伴ってくるのも初めてとあって、客たちの視線はダンテもさることながらその隣で俯き加減にグラスを手にしている女性の方に注がれていた。
「注目の的だな」
ダンテが女性の耳に触れそうなほどに唇を近づけて囁くと、言葉こそ聞こえないものの周囲のあちこちから女性客の溜息や小さな悲鳴が上がった。
遠縁ではあるが王族の血を引き貴族としての位も高く、齢四〇に至ってもいまだ独身、滅多にこういった場に顔を出さないダンテは社交界でも未婚既婚を問わず婦人たちの興味を惹く一番の存在だ。
そんな彼が薄らと口元に笑みを浮かべ親しげに女性に耳打ちしているのだから彼女たちにとってこれは大事件だった。
この先数か月、サロンでの話題はダンテ公と連れの女性の噂で持ちきりになるに違いない。
けれどそんな羨望の眼差しを受けている当の女性は、傍目にこそ分らない程度にダンテを睨みつけ唇を引き結んでいた。
そもそもの発端はお抱えの仕立屋がバージルの採寸をしたことだった。
今さら何をと思いつつ主の命なら従うしかないと大人しくしていたのだが、数日後、私室に届けられた箱を開けたバージルは絶句してしまった。
手に取るまでもなくそれは深い海の底のような青を基調とした女性用のドレスだったのだ。
客の品を間違えて届けるなどとんだ仕立屋もいたものだと、箱を閉じたバージルがそれを持って部屋を出ようとしたところで主のお呼びがかかった。
しかも届いた服も一緒に持ってこいという。
とりあえず従僕には仕立屋に品が違っていたことを連絡させるようにして、バージルは一抱えもある箱を携えて主の部屋へと向かった。
「ああ、届いたか」
箱を見るなりダンテはそう言って、どれ? とバージルの手からそれを取り上げてテーブルの上に置いた。
「あ、それは仕立屋の手違いで……」
事情を説明しようとしたがその前に中を覗いたダンテは満足そうに頷き袖のあたりを持ってばさりとドレスを広げてみせる。
「今流行のスタイルでと頼んだんだ、俺にはそういうのは分らないからな」
「あの……」
それはどうにも品違いのものに対する言葉とは思えない。
「どうだ、この色もお前に似合ってると思うが?」
しかも広げたドレスをバージルの肩に当ててくるのだ。
わけの分らないバージルはただじっとダンテの顔を見上げているしかできない。
「どうした、気に入らないか?」
「これは女性のドレスだろう」
素に戻ったバージルの口調にダンテが小さく笑った。
人前ではもちろんだが、二人だけのときもたいがいは執事として丁寧な言葉を使うバージルだったが何かの拍子にふと以前通りの口調に戻ることがある。
そんなときは大抵機嫌が悪い。
けれどその様子を全く気にすることもなく、ダンテはさらに意味不明の言葉を言ってきたのだ。
「それを着てパーティに出てほしい」
「…………」
「どうした?」
無言のバージルにドレスを手にしたままのダンテが顔を覗き込んでくる。
「言っている意味が分からない」
「だからこのドレスを着て……」
「俺がドレスを着てパーティに出ることの意味が分からない」
じっと見上げてくるバージルにダンテは仕方ないなというふうに小さく溜息をついて手にしていたドレスを無造作にテーブルの上に置いた。
「実は結婚を勧められていてな」
突然の結婚という言葉にさすがにバージルの眉も僅かに動く。
「まあ、今に始まったことじゃないが最近とくに煩くて」
心底勘弁してほしいといった表情でダンテは肩を竦めてみせた。
「それでどうして俺がドレスを着るんだ?」
「つまりだ、俺が女性を連れてパーティに顔を出して仲のいいところを見せつければ煩い声も収まるかと思ってな」
睨みつけるようなバージルの表情が一転、今度は呆れたようなものになってダンテを見つめる。
ダンテの方は、どうだ、いい考えだろう? とでも言いたげだ。
「悪いが俺は男だ。そんなのは知り合いのご婦人にでも頼めばいい」
「それがな……」
得意げな表情が一変する。
「前にそれを一度やったら頼んだ本人に勘違いされてな。相手の一族まで出てきて危うく本当に結婚させられるところだった」
ダンテほどの家柄の者と婚姻関係を結べれば相手の家にとっては大きな利益になる。
芝居とはいえ、その足掛かりを掴んだとすれば一族が躍起になるのも無理はないだろう。
初めて聞く話ではあったが相当大変な思いをしたのは本当らしく、当時を思い出しているのか眉を顰めているダンテにバージルはつい小さく吹き出してしまった。
しかしそれをダンテが気づいたため、すぐに表情を引き締めたバージルは、
「それなら屋敷の誰かに頼んだ方がいいと思うが?」
と提案する。
が、ダンテはすぐにそれを否定した。
「俄仕込みのマナーが通じるような連中じゃない。それにパーティは今夜だからな」
「今夜? そんな予定は聞いてない」
なんの準備もしていなかったバージルは少し驚いたがダンテは一向に気にもとめていないらしい。
「この前急に思いついてな。今夜のパーティには主だった面々が顔を出すからちょうどいい。だからドレスも大急ぎで作らせたんだ」
そう言って再度ドレスを手にとったダンテは、ほら、とそれを広げて見せた。
「何度も言うが俺は男だ。そんなものを着たって誤魔化せる筈がない」
「その点は大丈夫だと思うぞ。女中たちがきっちりと化粧も着付けもしてくれる」
「なにを……」
ちらりと隣の部屋に視線を向けたダンテにつられてバージルもそちらに目を向ける。
嫌な予感に背筋がぞわりとした。
「とにかく、俺には無理だ」
が、その瞬間、腰に手を回され強く抱き寄せられる。
「バージル」
「……っ」
吐息とともに耳を軽く噛まれて思わず肩を竦めた。
「パーティのマナーも何も分かっていない使用人を連れて行ったら俺が恥をかくだろう? お前ならその点は心配ないからな」
ぴたりと耳につけられた唇が喋るたびに動いてくすぐったい感触をもたらしてくる。
「それにお前は俺にとって一番大事なんだ。そういう意味ではお前を連れていくのは間違いじゃない」
今度は後ろから抱き込まれるようにしてうなじのあたりを舐められた。
「ん……」
あちこちを軽く吸い上げられて思わず身体が跳ねる。
「頼むよ、バージル。助けてくれないか?」
終わる気配をみせない唇の悪戯に、バージルは抱きしめてくる腕をぎゅっと握り唇を噛みしめながら囁かれる言葉を聞いていた。
周囲の痛いほどの視線を受けながらバージルはグラスに口をつける。
覚悟はしていたが自分の一挙手一投足が多くの視線に晒されているのかと思うとどうにもいたたまれなかった。
「ダンテ」
小さな声で呼べば「ん?」と必要以上に顔を近づけてくるものだから余計に周囲の視線が集まってしまう。
それもダンテにしてみれば分かってやっていることに違いない。
やはり受けるべきではなかったかと、溜息をついたところで耳のそばで吐息混じりに囁かれる。
「どうした?」
「もう十分だろう」
結局、助けてくれとまで言われてしまえばどうしようもなく、少しだけという約束でこんなドレスを着て銀糸の付け毛までしてパーティについてきたのだ。
これだけ注目を集めればもう役目は終わったといってもいいはずだった。
「短時間だけという約束だ」
「つれないことを言うな」
いきなりくいと顎に指をかけられたかと思うと額に唇を押しあてられる。
あちこちで息を呑む気配にバージルは思わずダンテの腕に手をかけたが到底離せるわけもない。
「いい加減にしろ」
周囲には聞こえないように、けれど力を込めて言ってはみるが全くダンテには効いていないらしい。
「俺の頼みを聞いてくれてもいいだろう?」
試しに下手に出てみれば「ふむ」としばらく考え込むようにバージルを見つめてくる。
いつもならなんのこともないはずがこんな恰好をじっと見られるのは我慢がならず、バージルはふいとダンテに背を向けて俯いてしまった。
それとほぼ同時に楽しげだった音楽が流れるようなワルツに変わった。
「バージル」
普通に喋ればいいものを、またわざと耳元でダンテは囁く。
「どうせだから一曲踊ってから帰ろう」
「な……!?」
何を馬鹿な、と言うつもりが少し強引なほどに手を引かれて息が詰まった。
気がつけばホールの中央に立たされている。
しかも二人の周囲には遠慮をしているのか気が引けてしまうのか、近くにポジションを取ろうとするカップルは一組としていなかった。
「踊れるだろう?」
もちろんステップは熟知しているが女役など始めてだ。
けれどこうなってしまってはもう逃げ場もない。
「一曲だけだぞ?」
「ああ」
「これが終わったら本当に帰るな?」
「分った」
腰に手を当てられぐっと引き寄せられる。
いくらなんでもあり得ないと、深い溜息をついたバージルだったが仕方なくタイミングを合わせてダンテのステップに自分のそれを合せていった。
「本当に女のステップは初めてか?」
「当たり前だ」
「こんなに踊りやすいのは初めてだぞ?」
「…………」
踊りやすいもなにも、パーティーに出ても滅多に踊らないくせにと悪態の一つもつきたいのを堪えてひたすらダンスに集中した。
さすがに身についたステップと逆のことをするとなると相当の神経を使わなければならない。
とにかく失敗しないうちに早く終わってくれと祈りながら、バージルは自分でも気づかないうちにダンテに預けた手に力を込めていた。
やがて二人の周囲にもカップルが舞い始める。
それでもやはり人々の視線はダンテとバージルに注がれていた。
それにしてもと、バージルは人の目のあやふやさに驚くとともにドレスと化粧だけで誤魔化せるものなのかと本気で呆れていた。
女性と比べてみればやはり肩などは張ってはいたものの、男の体形はドレスの膨らみや過多な装飾にうまい具合に隠されている。
そういった点において屋敷の女中たちは非常に優秀だと言わざるをえなかった。
嬉々としてバージルを女に仕立てあげていくときの彼女たちの騒がしい声に辟易しながらいいように振り回され、出来上がってみれば事情を知らずにその姿を見た執事補佐が本気でバージルを来客扱いして女中たちを喜ばせていたのだ。
ステップを踏みながらもあのときの執事補佐の驚いた表情が脳裡にちらついて仕方なかった。
戻って明日からどんな顔で仕事をすればいいのかと重苦しい気持ちになってくる。
「おっと」
気づいた時にはダンテに身体を支えられていた。
つい気が逸れた瞬間にステップを踏み損ねバランスを崩していたらしい。
けれど見た目的にはどうということもなく、一瞬高鳴った鼓動を深呼吸で収めたバージルは余計なことを頭から追い出し再びダンスに集中していった。
「大丈夫か?」
「……すまない」
「少し出よう」
「え?」
ダンスを始めた時と同じく唐突に足を止めたダンテは、あろうことかバージルを横抱きにしてその場を後にしたのだ。
「ダンテ、何を……!」
「いいから大人しく黙ってろ」
もういい加減にしてくれと思いながらも抗えない状況にバージルは唇を噛む。
いったいどうするつもりなのかと俯き加減にしていれば、ダンテは扉の傍の使用人に声をかけていた。
「すまないが連れの具合が悪くなってしまってね、少し休める部屋を貸してほしい」
「……っ」
具合なんか悪くないと言いたいところだったがさすがにここで声を出してしまうわけにもいかず、バージルは一瞬だけダンテを睨みつけてから視線を伏せるしかなかった。
案内された部屋はゲスト用の控え室だった。
何か入用なものはないかと訊ねてくる使用人に大丈夫だと答えたダンテは、扉が閉められるのを待ってから中央のソファにゆっくりとバージルを下した。
「どういうつもりだ!?」
扉の外に視線を向けつつ、抑えた声ではあるがダンテに非難の言葉を投げかける。
けれどそれに答えてきたのは唇を塞ぐ行為と首筋のあたりを撫で上げる指先の動きだった。
「ん……っ」
突然のことに動けずにいたせいか、半ば開いたままだった唇からダンテの舌が忍んでくる。
なんとか肩を掴んで離れようとはしてみるが、それも無駄なことだというのはこれまでの経験からして十分に分かっていた。
次第に深くなる口付けにせめて唇だけは離そうとしてみたが、いつの間にか後ろに回されていた手がしっかりと首のあたりを掴んでそれも叶わなくなっている。
同時に首筋から鎖骨のあたりを彷徨う指先のくすぐるような感触にバージルの肌がぞくりと粟立っていった。
やがて離れた唇に息を整える間もなく、今度は首筋に舌を這わされ喉を引き攣らせる。
首を竦めて逃れようとすれば耳朶を軽く噛まれ舌を差し入れられてしまう。
「ダンテ……」
それでもなお腕をつっぱり抵抗を繰り返すバージルにダンテが一言囁いた。
「抱きたい」
低い声と熱い吐息につつまれた言葉にバージルは小さく震える。
「なにを、こんなところで……」
「誰もこないよ」
「そういうことじゃな……くっ」
いつの間にかドレスの裾から忍んでいた手が腿の柔らかいところを撫で上げていった。
反射的に脚を閉じたがダンテの手を止めるには至らず、そのまま這い上った指先がバージルの中心に触れていく。
「バージルもその気じゃないのか?」
長い口付けと指先や舌での柔らかい愛撫にバージルの熱もやんわりとではあるが反応を始めていた。
そもそも数えきれないほどに抱かれてきた身体は簡単に快楽を受け入れてしまう。
バージルを躊躇わせているのはここが他人の屋敷であることとドレスを着て女の恰好をしているということだけだった。
「なんで、こんなところで……」
上がってしまいそうな息を無理やり抑えるように言ってダンテを睨みつけてみるが、既にその瞳は熱に浮かされ始めていた。
「ん? バージルは興奮しないか? なんとも背徳的な感じがするだろう?」
「そんな……んぁっ」
いつもより荒い手つきに、それまでダンテを遠ざけようとしていた手は縋りつくように黒いジャケットの胸元を掴んでいた。
「我慢しなくていいだろう、もう声も出して平気だぞ?」
「や……」
表情を覗き込んでくるダンテから顔を隠すようにその胸元に額を擦りつける。
なんとか自分を落ち着かせようと深呼吸をしてみるが、追い立てるようなダンテの指がそれを許さなかった。
触れられれば抑えきれない快感が全身に広がっていきもはやどうすることもできない。
それでもなんとか声だけは出したくないと、バージルは滑らかな生地のジャケットに差し込まれていたポケットチーフを噛みしめた。
「どうしたんだ、バージル。いつもみたいに声を出してごらん?」
「んっ」
既に蜜を溢れさせている先端に軽く喰いこんできた指がバージルの身体をびくりと震えさせた。
疼くような熱が腰から背筋を通って身体の奥深くにまで染み入っていく。
「バージル?」
耳に口付けられながら囁かれ、それでも嫌だと弱々しく首を振ってはみるが身体はもう熱に侵食され抑えることなどできないところまできていた。
「うぁ……んっ、だ……て」
「そう、もっと声出せるだろう?」
「いやだ……っ」
「どうして?」
蜜に濡れた指先が、今度はさらに奥で熱く息づいている場所に触れてきた。
「我慢しても辛いだけだろう。俺はもうここで抱くと決めたんだから」
「そんな……」
それでも首を横に振るバージルに、ダンテは後ろに当てていた指先をほんの少しだけつっと潜り込ませていった。
「はぅっ」
思わず身体を緊張させ力を込めれば余計にダンテの存在を感じることになってしまう。
その指先を僅かに蠢かせながら、同時に張りつめた先端に蜜を塗りたくるような愛撫を加えられた。
「んーっ、んぁ……も、ダンテ!」
今にも達しそうになったバージルはぎゅっとジャケットを掴み頬を擦り寄せその瞬間を待つ。
が、そんな期待を裏切るかのようにダンテの指が離れたかと思うと腿の付け根あたりを彷徨い始めた。
「や、ダンテ……?」
焦ったように顔を上げたバージルだったが唇を塞がれて息が詰まる。
その間にも後ろに差し込まれた指はさらに奥まで届き、既に知りつくした内部を探るようにゆっくりと動いていた。
もちろんそれはそれで快感を与えてはくれるが、さきほどの極められるほどの感覚を突然奪われたバージルは縋るようにダンテに身体を寄せて自分から腰を揺らしてしまう。
「その気になったか?」
ちゅ、と唇を離したダンテが今度は額に唇を落としながら囁く。
「ダンテ……ダンテ」
「ん?」
「も……ダンテ」
「どうした?」
あくまでも優しい口付けと緩やかな指の動きにバージルはいやいやと首を振っては堪えられない思いをくみ取ってほしいと縋りつく。
けれどダンテは決してそれ以上のことをしてはこない。
いつもそうだ。
ゆっくりゆっくりとバージルを追いたてるだけ追い立てて、やがて理性の限界を超える様子をいつも楽しそうにじっくりと見つめているのだ。
「言ってごらん、どうした?」
こうなってしまってはもうどうしようもないとバージルも分かっている。
「……たい」
「ん?」
「……いきたい」
震えながらもやっと言った言葉はまだ理性の残っているバージルには羞恥以外のなにものでもない。
それでも今はぎりぎりまで煽られた熱を静めたいのが先だった。
「それでいい」
額を彷徨っていた唇が離れたかと思うと突然ダンテがバージルの前に膝をつく。
「あ……」
同時に背後にあった指までもが抜かれて、完全に快感を奪われたバージルは切なげに小さな声を上げてダンテを見降ろした。
が、ダンテはバージルの手を取ってその指先に唇を落とし楽しそうな笑みを浮かべている。
「ダ……テ……?」
振り絞った声は今にも消え入りそうなほどにか細く小さい。
「ドレスを上げて」
思わず目を見開きダンテを見つめる。
「できるだろう?」
ちらりと指先を舐める舌にバージルは思わず喉を鳴らしてしまう。
そうしてゆっくりとダンテに取られている手を引いてドレスの裾を遠慮がちに持ち上げた。
「一体どこを触ってほしいんだ?」
「……っ」
先ほどまでのぎりぎりの快感は相変わらずバージルの中で渦巻き神経をも疼かせ身体の熱を上げていく。
羞恥と快感に昂る頬の熱さを感じながらバージルはさらに裾を持ち上げ、請うように起立し蜜を流しているそこをダンテの目の前に晒した。
ぎゅっとドレスを掴む指先は真っ白になって震えている。
「可愛いよ、バージル」
その指に再び唇を落としたダンテはひどく優しい笑みを浮かべてバージルを見上げていた。
けれど言葉はまだバージルを攻めたてていく。
「どうして欲しい? 手か、それとも口?」
ここまできても続くダンテの意地悪にバージルは絶望とも熱望ともとれる瞳を向けた。
「バージルの好きな方をしてあげよう」
潤む瞳に優しく笑みを返しながら指先ですっと腿の内側をなぞっていく。
小さな悲鳴とともに跳ねた身体がソファの背に押し付けられ、同時に腰が差し出される格好になった。
指は脚の付け根まで登りその周囲を焦れったいほどにゆっくりとくすぐってくる。
「どっちが好みだった?」
「ダンテ……」
ドレスを持ち上げ濡れて震える自身を晒している上に、そんな恰好のまま自分の欲求を口にしなければならないなど羞恥の極みだった。
なんとか助けてほしくて縋るようにダンテを見つめるが当のダンテは素知らぬふりで腿のあちこちに唇を落としている。
「バージルの一番いいようにしてあげたいんだ。言ってごらん?」
柔らかいところを吸い上げられ紅い跡がつけられていくたびに脚が痙攣したように引き攣り快感が増していく。
「くち……くちで、してほし……」
「何を?」
「……なめて」
「それから?」
「なめて……」
そこまで言うのが精一杯かのように大きな吐息をついたバージルは言葉を止めた。
けれどダンテは張りつめた欲望に触れないぎりぎりのところをくすぐったり唇を這わせたりして追い詰めていく。
「舐めて、それから?」
どんどんと昂っていく熱とダンテの言葉に身体の髄まで侵されているようだった。
優しい声音が毒のように全身に周り羞恥や理性を麻痺させていく。
「……いか、せて」
一際ぎゅっとドレスの裾を掴み目を閉じてバージルは観念したように呟いた。
喉がひくつき吐息までもが震えている。
「そうだな、バージルは舐めてイかされるのが大好きだったな」
ちがう、と言いたげに二三度首を振るが期待に膨らんだ欲望はとろりとした蜜を流し甘い舌を誘っていた。
「もっと開いて」
膝がしらに手を当てられ脚がゆっくりと左右に開かれていく。
ダンテのどんな言葉も行為も全てがバージルの快感へと繋がってしまう。
開かれた脚の間に身体を割り込ませたダンテは舌を差し出し蜜を湛えている先端にほんの少しだけ触れてやった。
「あぁっ!」
たったそれだけのことにバージルは身体をソファに押し付け喉元を逸らせながらびくりと跳ねる。
そのままちらちらと舐めていると全てを諦めたかのように鼻から抜ける甘ったるい吐息と喘ぎが漏れ始めた。
「ダンテ……ダンテ、ん、ぁ……っ」
裾を握りしめていた手はダンテの髪に差し入れられ、もっととせがむように指でまさぐっては腰を押しつけていく。
両膝の裏を抱え肩に乗せ、腰をしっかりと押さえつけたダンテはさらに奥まで呑みこみながら奥の蕾に指を差し入れた。
「ひっ……!」
バージル自らの蜜に濡れた指は容易に奥まで入り込み、あちこちを探っては再び引き出され熱い入口を解していく。
「あ、あっ……んっ、は……んぁ!」
すっかり身体をソファに預け無意識のうちに腰を浮かしているバージルは、ふるふると震える腿で逃すまいとでもいうかのようにダンテの頭を挟みこんでいた。
優しい言葉と唇で焦らされていたさっきとは違い、全く容赦のなくなった愛撫に溺れていく。
「ダン……も、だめ……だっ」
「もうイくのか?」
熱く湿った吐息を吐き出しながらこくこくと頷くバージルに、ダンテは中のいいところをゆっくりと擦りながら張りつめ今にも極めそうな欲望をぺろりとひと舐めした。
「はぅ……っ、だん、て……」
「そうだな、さっき上手く言えたご褒美だ」
言うと同時にぐいぐいと中を押され、ぬめる先端に硬くした舌先を差し込まれる。
「あ、あ……あぁぁ、んぁ……っ」
抑えきれない快感に激しく首を振るたびに細い銀糸が首や鎖骨の上をのたうちまわった。
「ダンテ! も、いく……ぅっ、くぅぅ!」
それまで躊躇っていた言葉さえすんなりと言えてしまうほどに侵食してきた快感がバージルを突き上げ頂点へと追い詰めていく。
「ふぁ……っ、あ、やっ、んあぁぁ!」
一瞬、全身を緊張させ肩に乗せられた脚を突っぱねる。
立て続けに襲ってくる快感をなんとか受け止めようと、バージルはぐっとソファに頭を沈ませ腰を震わせながら嬌声混じりの荒い呼吸を繰り返した。
バージルの脚を降ろしその隣に腰をかけたダンテは達したばかりでぐったりとしている身体を抱きよせその髪に唇を落とす。
まだ息の整わないバージルはそれでも強請るように顔を上げて口付けをせがんでいった。
唇を合わせると自分の吐き出したものの匂いと残るぬめりを感じて僅かに眉を顰めるが、それさえも今は興奮を煽るものでしかない。
淫らな音を響かせながらの長い口付けを解く頃、バージルの熱はすっかり元に戻ってダンテを求め始めていた。
「膝の上に乗れるか?」
それに気づいたダンテも欲情に濡れる瞳を見つめながらバージルの腰に手をかけてその脚が自分を跨ぐようにするのを助けてやる。
「できるか?」
低い位置から見上げられこくりと頷いたバージルは完全にドレスの裾に隠されてしまったダンテの下肢を探り、やがて同じように硬く濡れ始めていたものを取り出し手を添えた。
それを自分の後ろにあてがいゆっくりと腰を落としていく。
反射的にぎゅっと締まろうとする蕾を息を逃がすことでなんとか開き奥へ奥へとダンテを誘い込む。
その間、ダンテはバージルの頬に手をあて幾度も撫でては深い吐息をついていた。
「いいぞ、バージル……上手くなったな」
呑まれていくだけでも強烈な快感にダンテの声も掠れ気味になってくる。
そうして全てを収めたバージルは自分の身体を抑え込もうとでもするかのように深い呼吸を繰り返しダンテの頭を抱きしめていた。
「ダンテ……?」
しばらくじっと抱き合ってからバージルは問いかけるように小さくその名を呼んでみた。
視線が合うと眉根が切なそうに歪められる。
「動いてみるか?」
「ん……」
頷いたバージルは言われた通りにゆっくりと腰を前後に揺らし始めた。
「くっ……ぅ」
途端にダンテが唇を噛みしめる。
バージルも疼き始める内壁に全ての感覚を預けるように目を閉じてダンテの肩をぎゅっと掴んでいた。
「う……ぁ、あ、ん……っ」
揺れていた腰がやがて円を描くように回されるとバージルの声が一際高くなりダンテへの締め付けも熱くきつくなっていく。
「駄目だ、バージル。……もっと抑えて」
「でも……むりっ」
もっと激しく動いてしまいそうになる腰をダンテは捉えてしっかりと抑え込んでしまった。
そのうえで、できるだけゆっくりと動くように手を添えバージルをリードする。
「ダンテ……っ、こんな……もっと……ぅっ」
「駄目だ、我慢しろ。その方がずっと気持よくなれる」
「でも……はぅ、ぅ……」
じりじりとする熱が内部に籠って少しずつバージルの身体を焼いていくようだった。
いっそのこと、この熱を煽って欲の炎に包まれたいとさえ思ってしまう。
けれどダンテはそれを許してくれず、強く掴んだ腰を焦らすように揺らしては籠るような熱をバージルに与え続けていった。
「バージル……そんなに、あせるな……」
吐息混じりのダンテの声もかなり快感に呑まれ始めている証拠だ。
「も、こんな……もっと、して……」
「動きたいか?」
こくこくと頷いたバージルはさらに強く腰を揺らそうとして抑えつけているダンテの手をぎゅっと握り込んだ。
痙攣するように内壁がひくつき始めダンテに纏わりついてくる。
「我儘なお嬢さんだな」
そんな言葉と小さな苦笑の後に、ダンテはいきなり腰を突き上げバージルに悲鳴を上げさせた。
「ひっ、あっ、あっ、あぁ……っ!」
突かれるたびに小さな悲鳴が零れてくる。
「今回は……助けてもらったからな」
「ダンテ、ダンテ!」
「また、少しずつ覚えれば……いいっ、……くっ」
動きを解放されたバージルはダンテに縋りつきながら腰を振り、呑みこんだ熱が擦り上げていくのを待ちかねたようにきゅうきゅうと締め付けていった。
「は……ぁっ、んぁ、……だん……っ」
「ああ、バージル、いいぞっ、もっと……」
「ダンテ、さ……って、まえ……さわって……」
ダンテの腹に自分の震える欲望を押し付けるようにしてバージルが熱い言葉を吐き出す。
「今日は、これだけで……いってごらん」
「や、いやだ……むりっ、そんなの……」
熱に浮かされたバージルの視界は滲む涙のせいで霞んでしまっていた。
それでも懸命にダンテを見つめ触って欲しいと訴える。
「だいじょ……ぶ、いける、……ほらっ」
「あぅ……っ!」
一際大きく突き上げ上下に腰を揺さぶられ、バージルの爪がダンテの肩に食い込んだ。
「くっ、バージル、動き……合わせてごら……っ」
「やっ、やだ……ぁ」
中を抉るダンテのものが一番いいところに当たるようにバージルは必死に腰を動かした。
そこが触れるたびにびりびりと痺れるほどの快感が背筋を駆け抜け全身に広がっていく。
互いに相手の動きを感じながら身体を揺すっていけば、そこから生まれてくるこれまでにないほどの快感に全てが支配されていくようだった。
それを受けきれないバージルは髪を振り乱し助けを求めるようにダンテに縋りついていく。
それでも止まないダンテの突き上げにひたすら喘ぎの声を漏らすことしかできなくなっていたバージルだったが、身体は無意識のうちにも腰を揺らしダンテを捉え深く熱い処へと引きずり込んでいくのだった。
やがて二度めの絶頂を迎えたバージルとその中に欲を解き放ったダンテはゆっくりとソファに沈み互いの鼓動を感じていた。
ダンテの胸に紅潮したままの頬を当てていたバージルは快感の余韻と響く鼓動の心地よさにうっとりと目を閉じる。
ダンテもその身体の重みを感じながら、ゆっくりとバージルの背に置いた手で子どもを宥めるようにぽんぽんと軽く叩いていた。
「バージル……」
小さく呟くと答える代りにバージルは僅かに身じろぎをした。
「今夜はここに部屋を借りよう。この格好ではさすがに帰れないだろうからな」
「ん……」
完璧なほど奇麗に身支度をしてもらったものの、ダンス以上の激しい行為にあれほどきっちりと閉められていたコルセットさえ緩み着崩れて肩も顕わになっている。
それに何よりたった一度のことで互いの身体の熱が収まるとは到底思えなかった。
少し落ち着いてみれば遠くからゆったりとした音楽が聞こえてくることに気づく。
そろそろパーティもお開きなのかもしれないと思いながら、バージルはダンテの胸に頬を当てていた。
「バージル……」
囁くように呼ばれた名前のあとに何か言っているらしいダンテの声が少し遠く感じる。
何を言っているのだろうと思いながらも、バージルは響いてくる鼓動に身体を預けて短い眠りに落ちていった。
2009/10/20
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