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共鳴関係
軽く一杯ひっかけてシャワーを浴びて、裸のまま濡れた髪を拭いていたらいきなりそのタオルに別の手が重なってきた。
驚いて振り返ってみたがタオルに視界を塞がれていて何も見えない。
事務所の奥にあるバスルーム。
ここまで入ってきてこんなことをするのは一人だけしかいないから、俺はそいつにされるがままに頭を拭かれながら大人しく突っ立っていた。
がしがしと乱暴にされるせいで頭がぐらぐらするがこれはこれで気持ちがいい。
しばらく目を閉じてその乱暴さ加減に酔いしれる。
そのうち拭くことに飽きたらしいダンテはタオルを放り投げて俺の首に鼻先を擦りつけるようにして背後から抱きしめてきた。
嗅ぎなれた血の臭いに、せっかくシャワー浴びたのに血ぃくっつけんなよと文句を言おうとしてやっぱりやめる。
そもそもこいつは返り血を浴びるほど愚鈍じゃないし、何より今はそんなことを言っていい状況じゃないような気がしたからだ。
最近になって無口で無表情なこいつの感情が分かるようになってきた。
というか感じるようになったっていうか流れてくるっていうか。
こうして近くにいるとゆっくり空気が触れてくるように、それが近づいて俺の中に流れ込んでくる。
ふわりとした感じとか、ぴりっとした感じとか、蒼く沈む感じとか。
相手の感情が分かるっていうのはけっこう便利だったりするが、ある意味やっかいでもある。
なんたってこっちの感情もあっちに筒抜けになってるわけだから。
そのうちお互いの間に無言の決まりごとみたいなものが出来上がってきた。
知られたくない感情のときは近づかない。
逆を言えばこんなふうにくっついてくるってことは……。
いきなり湧きあがってくる感情にこいつを抱きしめてやりたい衝動に駆られたが、馬鹿力で抱きしめられているせいでどうにもすることができない。
何があったのかは想像もつかないが、何かがあったのは確実に分かる。
重っくるしいものがどんどん俺の中に沈んでいく。
どうしたんだ、なんて聞いたってこいつが答えるわけもない。
だからくっついてくるんだろう。
相変わらず身動きは取れないが少しでもなんとかしてやりたくてもがいてみた。
それが伝わったのかもしれない。
一瞬緩んだ力の隙をついて、やっと自由になった腕を後ろのこいつに回してみる。
瞬間。
重苦しかったものがほんの少し軽くなった。
ほんとに便利だな。
首を巡らせれば青い瞳とかち合う。
ぼんやりと開かれていた唇に俺のを押し付けて少しだけ噛みついた。
「シャワー浴びてこいよ」
そうだな、と呟いたわりには動こうとしないこいつに笑っちまうくらいの愛しさが込み上げてくる。
けどこれだけ側にいればそれが俺だけの感情じゃないことも明白だ。
とりあえず今は気の済むようにさせてやろうと思いつつ、考えてみれば俺一人こんな格好っていうのもどうなんだ?
なんてことが頭を過った瞬間、鼻の先で笑うような微かな息を感じた。
そうだ、こいつは俺よりもよっぽどはっきりと感情を読みとっちまう。
「さっさとシャワー行けよ」
「そうだな」
さっきと同じ言葉を今度は面白そうに言ったこいつに、やっぱり動こうとする気配は見られない。
ああ、やっぱり不便かも。
それでもさっきよりはよっぽど浮き上がったこいつの感情は、俺にとってもどこかふわふわとして心地がいい。
好きにすればいいさ。
これだから二人で一緒にいることに意味がある。
どこまで分かってるか分からないが、そんなふうに思った俺をあいつの腕が苦しいほどに抱きしめてきた。
2009/07/28
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