熱帯魚愛好家、大石の憂鬱
大きいものに憧れるのは男の常で、これは大石にしても例外ではない。
大石の部屋の水槽には水草と戯れるグッピーやらエンゼルやらがいるが、本当は体長1mを超えるような大型魚を飼ってみたいものだと常々思っていたりする。
今日も部活終了後、行きつけの熱帯魚店に出向いた大石。
そこで彼を待ち受けていたのは体長5cmほどのレッドテールキャットの幼魚。
レッドテールキャット。
アマゾン全域に分布する、なまずの仲間。成魚の体長は優に1mを超える。
でっかいくせにクリクリとした目がどこか間の抜けている表情と相まって愛嬌たっぷり、その上、飼い主に慣れて手から直接エサを受け取ったりするのでペットとしての要素を多分に備えている人気者。
成魚でも愛嬌があるのだから、これが幼魚ともなると凄まじいほどの愛嬌オーラを発していて……。
―― うっ、か、かわいい……。
見事、そのオーラにつかまった大石は水槽の前から動けなくなる。
彼の頭の中にはすでに数年後の自分の部屋の様子が浮かび上がっていた。
幅180cmの大型水槽で悠々と泳ぐレッドテール。
彼(彼女?)は大石の姿を見ると、お腹がすいたとおねだりダンスをしてくる。
―― さっき食べたばかりじゃないか。
と言いながらも、かわいい彼(彼女?)のおねだりには敵わない。
―― まったく君は食いしん坊だね。
などとニッコリと微笑む大石。
ハっと現実に戻ると、じっと自分を見つめてくる幼魚。
目を合わせているとまるで彼(彼女?)の声が聞こえてくるようで。
 ねぇ、僕を連れてってよ。お願い。いい子にしてるから……。
上目遣いに見上げられて切なくなる大石。
後ろを通った店員さんに、思わず「これ、下さい」と言いたくなる衝動をググーっと堪え、
―― す、すまない。
   俺には……俺にはお前を幸せにしてやる資格がないんだ。くっ……
と握りこぶしを震えさせて目を背ける。
今は5cmといえども、成長すれば1mを超える大型魚。
そんな魚を飼える設備など義務教育中の大石に準備できるわけがない。
ほんの一瞬の欲望にまかせて彼(彼女?)を自分のものにしてしまったが最後、1年後、いや、半年後に地獄を見るのは明らかだ。
 そうだよね。ごめんね、我がまま言って……。
さっきまで愛嬌たっぷりだったその目は憂いに満ちていた。
―― 俺に、俺に甲斐性がないばかりに……。
ほとんど涙目になって幼魚を見つめると、
 いいんだ、分かってるから。
とばかりに無理をしてニッコリと微笑んでいる(ように大石には見える)。
―― すまない……。
そのまま動くに動けない青学の最後の良心と言われる大石は2時間ばかり幼魚の水槽の前にへばりついていた。

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熱帯魚好きなら必ず一度は通る道……。
というか、必ず一度どころか月に一度は通るかも。
(5.16.2003)

 

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