夕方から降り始めた雨はどんどん激しさを増して、夕食が終わる頃には大粒の雨が窓を叩くようになっていた。
「なんだかスゴい雨になってきましたねえ」
コーヒーを一口飲んだ大和が呑気に言ったとき、突然強い光が窓から差し込んできた。
一瞬の間を置いて身体中に響くような大きく低い音が鳴りわたる。
同時に室内では手塚の甲高い悲鳴が響いていた。
「なかなか大きな雷でしたが、大丈夫ですか、手塚くん、あれ? 手塚くん?」
さっきまでテーブルの向かい側あたりに立っていたはずの手塚の姿が見えなくなり、大和はしばらくきょろきょろしてしまった。
「ここにおります」
それに答えたのは乾で、彼の視線は随分と低いところに投げられている。
大和がひょいとテーブルの下を覗くと、ぺたんと座り込んで椅子の脚にしがみついてる手塚が見えた。
「手塚くーん、大丈夫ですかぁ?」
その声にハっと気づいた手塚が慌てて立ち上がる。
「す、すいません! 大丈夫ですっ!」
そうは言うものの、ぎゅっと握られた拳は小さく震えている。
考えてみると、手塚がここに来てから雷が鳴ったのは初めてだ。
ここまで怖がるなんて本当に子どもみたいだなと思うと可笑しいのだが、それがかえって手塚への愛しさを倍増させてしまう。
「手塚くん、今日はもういいですから、雷がひどくなる前にお休みなさい」
にこりと笑う大和に手塚は頬を染めて「大丈夫です」と強がってみせるが、語尾が弱い上に目があちこちと泳いでしまっていた。
「乾くん、僕はとりあえず手塚くんを部屋まで連れて行ってきますから。後で僕の部屋にコーヒーをお願いしますね」
「はい」
「じゃあ、手塚くん、行きましょう?」
そう言いながら席を立つ大和を見て、手塚は両手をぶんぶんと顔の前で振ってそれを止めた。
「大丈夫です。ちゃんと一人で戻れますから……」
「でも、また途中で雷が鳴ったらその場に座り込んで動けなくなるんじゃないですか?」
「だ、大丈夫ですっ。あの……、では失礼させていただき……っ!」
再び強烈な光を感じて手塚は言葉に詰まった。
続けて先ほどとは比べ物にならないほどの大きな音が鳴り響き、ふいに部屋の中が暗闇に包まれた。
「停電?」
ぽつりと呟いた大和は周囲の様子を窺うように首を巡らすが、ふいに光を奪われたため視界は真っ暗で何も映らない。
無意識のうちに側にあるはずのテーブルを手で探っていた。
「乾くん、何か灯りはありますか?」
「あ、はい」
しばらくしてカチっという音とともにライターの小さな灯りがついた。
「手塚くん……?」
またその姿が見えなかったのでもう一度テーブルの下を覗いてみると、小さな灯りだけではっきりと判別はできないものの、手塚らしきものが床の上に黒くうずくまっているのが見えた。
やれやれと大和は仄かな灯りを頼りにテーブルを回りこんで、小さくなって震えている手塚をひょいと抱き上げる。
「あ、あの……っ」
驚いてじたばたする手塚を無視して大和は乾の方に向いた。
「とりあえずブレーカーを調べてもらえますか? それでも灯りが点かなかったらもう今夜は休んでください。ここの片付けも明日でいいですよ」
「はい。あ、懐中電灯をお持ちしましょうか?」
「ああ、いいですよ。大分目も慣れてきましたから」
そうして、じゃ、と短く言うと大和は手塚を抱いたまま器用にドアを開けて食堂を出ていった。
「あ、の……」
「ん?」
「もう大丈夫です。一人で歩けます」
胸の中で呟く声はひどく小さくて、時折、遠くまた近くで鳴る雷鳴に怯えているようだった。
しかし大和が何も答える気配がないのでそれきり黙ってしまう。
が、大和が2階への階段を上り始めたことに気づいて手塚は少し慌てて首を巡らせた。
「あの、部屋……」
手塚の部屋は1階の一番奥にある。2階にあるのは大和と彼の両親の部屋、そしてゲストルームだけだ。
「祐大さま?」
不安げな手塚の声にやっと大和は視線を向けてにこりと答えた。
「今夜は朝まで僕のところにいなさい」
「えっ、そんな、ダメですっ!」
「どうして?」
「だって、私は使用人ですから。ご主人さまの寝室で過ごすなんて……」
「ご主人さま……ねぇ」
その言葉の響きが気に入った大和は面白そうに口元を緩ませる。
「じゃあ、そのご主人さまの命令です。今夜は僕の側にいなさい」
「でも……」
「命令です。それに雷は当分続きそうですよ?」
「う……っ」
「ね? これで決まりです」
嬉しそうに、にっこりすると大和は再び階段を上り始め、食堂のドアを開けたときと同じように器用に自室のドアを開けた。
「目が慣れたとはいえ、やはり少し灯りがほしいですねえ」
手塚をベッドの上に降ろすと腰に手を当ててしばらく考え込んでいたが、この部屋には電気以外に灯りになるものはなかった。
しばらく考えていた大和だが、やがて「あ、そうだ」と呟くと大人しくベッドの縁に座っている手塚に視線を合わせて、
「ちょっと灯りを持ってきますから、待っててくださいね」
と言い残して部屋から出て行ってしまった。
そうして大和が部屋のドアを開けたまま廊下に出た途端、鋭い光と雷鳴が轟いた。
部屋の中からは息を詰めたような悲鳴が聞こえてくる。
ひょいと中を覗くと、手塚は頭からすっぽりとシーツを被ってベッドに潜り込んでいた。
「頭隠して、尻隠さず……」
その言葉通りの状態に小さく笑うと、大和は急いで隣の部屋に入って机の中を手探りした。
暗い中でやっと目的のものを手に入れると大和はまた急いで手塚のもとに戻る。
相変わらずベッドの中で小さく震えている隣に腰を降ろすと、
「手塚くん?」
とその塊をぽんと叩いてみた。
やっと大和が戻ってきたことに気づいたのか、手塚が恐る恐るという感じでそっとシーツの下から顔を覗かせる。
「ほら、これで少しは明るくなりますよ」
大和が見せたのは掌の上に乗せた四角いものだった。
しかし暗闇の中でそれが何なのか判別がつかない手塚は、それでもじーっと見つめてその正体を探ろうとしている。
「ろうそくです。この前、不二くんがヨーロッパ旅行のお土産にくれたものですよ」
そう言うと大和は一緒に持ってきた小皿とろうそくをサイド・テーブルに置いてライターで火をつけた。
最初は小さく不安げだった炎は次第に安定してきて意外なほどの明かるさをもたらした。
シーツから頭を出しただけの状態のまま、手塚はその小さな灯りに目を吸い寄せられている。
ろうそくに照らし出された手塚の瞳には涙が浮かんでいて、その中に映る光がろうそくの炎に合わせて一緒に小さく揺れていた。
大和はそんな手塚をろうそくの側に座らせると、そっと後ろから両肩に手を乗せてその肩越しに一緒に揺れる炎を眺める。
「ろうそくの灯りを見ていると落ち着くでしょう。こうしていれば、きっと雷も怖くないですよ?」
「あの……」
炎をみつめたまま手塚が小さく唇を動かした。
「ん?」
「すごくいい香りがします」
「ああ、これはアロマ・キャンドルですから。何の種類かは忘れましたけど、きっと落ち着ける成分でも入っているんでしょう」
そう言いながら大和は淡い茶色の髪をゆっくりと何度も撫でた。
いつもだったらこうされると手塚は僅かに肩をすくめて恥ずかしそうな顔をするのに、今は微動だにせず目の前の炎をみつめている。
自分が手塚のためにと持ってきたものではあるけれど、そこまで一心不乱に見つめられるとなんとなく自分が無視されているようで大和の気持ちも少しだけ穏やかではいられなくなった。
手塚の耳にかかっている髪をよけると、その耳朶に沿ってゆっくりと指を滑らせる。
「んっ」
さすがに手塚が反応を見せた。
指に続けて唇でなぞっていくと鼻から抜けるような甘い吐息が聞こえてきて手塚は首をすくめる。
なんだかんだと理由をつけて自分の部屋に連れてきたのは、もちろん最初から手塚の身体に触れたいと思ってのことなのだが、思いも寄らなかった小さな嫉妬心が大和の欲を少しずつ刺激してきていた。
手塚の両肩に置いていた手をゆっくりと腕に沿って滑らせて、そっと脇の下からくぐらせる。
耳に唇を寄せたまま手探りで小さなボタンを探し当てると、それを一つずつ外していく。
「あの……」
「黙って。ご主人さまの命令です」
小さく抵抗を見せた手塚をその言葉一つで押さえると、大和は全てのボタンを外して丸みを帯びている小さな肩を露にする。
オレンジ色に照らし出されているその肌に唇を当てて肩先から首筋に滑らせると、僅かに息を呑む気配が感じられてぴくりと身体が震えた。
柔らかい布に覆われた胸を掌で覆うと、まるで子どもがいやいやをするように首を振る。
「イヤですか?」
唇を背骨に沿ってずらしながらそう聞くと、大和には見えないものの頭上で再び首が振られる気配がした。
よかった、と呟きながら口で下着のホックを外す。
「あ……」
手塚の胸を覆っていた下着が緩んで、そこから大和の手が入り込み直接手塚の肌に触れた。
途端に唇から漏れた手塚の声が大和をさらに昂ぶらせる。
しかも手塚の胸はただ優しく包まれているだけなのに、その先端はもう大和の指を待っているかのように主張を始めていた。
そうして指先がそこに触れたと同時に手塚の息を呑むような声が聞こえてくる。
しかし自分が聞きたいのはそんな声ではないとばかりに、大和は可愛らしく息づくそこを指先で愛し続けた。
「ん……っ、やぁ……」
次第に手塚の息も上がり始めて、唇からは大和の好きな甘い声が漏れてくる。
「もっと声、出して? こんな雨だから、どんな声もかき消されちゃいますよ」
それでも手塚は首を左右に振りながら必死に声を抑えている。
「強情なメイドさん、だけどね、そんな態度は僕を楽しませるだけなんですよ?」
「やっ!」
耳に息を吹き込んで、先端を少しばかり強く摘んだだけで手塚の身体が大きく跳ねた。
その反応に気をよくした大和は片方の手をそっとスカートの裾に忍ばせる。
すると無意識のうちなのか、手塚が息を乱しながらもその手首のあたりに自分の手を添えてきた。
大和の手を止めようとしているのか導こうとしているのか。
少し手を進めるとすぐに薄い布にたどり着く。
そこはもう溢れてくる熱いものでじんわりと潤っていて、もうすぐ与えられるであろう快感を予測しているかのように大和の手首を掴んでいた手塚の指に力がこもった。
しかし大和の手はそれ以上動くことはなく、ただじっとその場所で留まっている。
そんな状態がしばらく続いて、さすがに耐えられなくなったのか手塚が少しだけ振り向いて切なそうに大和を見上げてきた。
「どうしてほしいですか?」
「え……?」
思ってもみなかった問いに手塚は戸惑う。
「どうしてほしいのか、教えてくれますか?」
楽しそうに耳元で囁かれる言葉に、手塚は俯いて小さく首を振る。
きっとその瞳はぎゅっと閉じられているに違いない。
「教えてくれないと、分かりませんよ?」
「……嘘、です」
手塚が小さく呟いた。
「何が嘘?」
「だって……、分からないなんて……」
「嘘じゃありませんよ。ほら、いつもは僕が一方的に触っているでしょう? だけどそれが本当に手塚くんが望んでいる通りなのか、本当はいつも不安なんですよ?」
「そんな……」
「だから教えてほしいんです、手塚くんの手で」
その言葉に手塚がぴくりと反応する。
「どこをどうしてほしいのか、君の手で僕の手に教えてください」
間違いようのない言葉の意味に手塚が小さく震えながら「や……」と答えた。
「できませんか?」
何度も頷く手塚の髪が揺れている。
「じゃあ、お願いじゃなくて命令しましょうか。僕の手を、手塚くんの気持ちいいと感じるところに持っていきなさい」
「祐大さま……、ひどいです」
なおも拒否をする手塚の耳を唇でなぞりながら、もう一度大和は囁いた。
「命令です」
そう言ってから、大和は熱い部分に少しだけ指を押し当てた。
「あ……んっ!」
一瞬の快感に一際高い声が上がる。
本当は望んでいたものなのに、それをすぐに取り上げられてしまって手塚はこれ以上どうしていいのか分からず途方に暮れてしまう。
「今の、気持ちよかったですか?」
少しの間を置いて、手塚の首が小さく頷いた。
「もっと気持ちいいところ、あるでしょう? 教えてください。ね?」
「あっ、あ……やっ」
ゆるゆると滑る指に、手塚は頭を背後の大和の胸に押し付けるようにしてくる。
「ね、早く、手塚くん?」
いつまでも緩やかすぎる曖昧な指に手塚の全ての神経が注がれていく。
やがて耐えられなくなってきたのか、手塚の指がそっと大和の指に重なった。
そうして少しだけ場所をずらせてその指に力を添える。
「はぁっ……んっ!」
思わず腰を引いてしまうけれど、背後に大和がいるためにそれ以上後ろに行くことはできず、余計に身体を寄り添わせるだけに終わってしまう。
「ここが、好き?」
同じ場所を大和が何度か抑えると、手塚はこくこくと頷いてそれに答えた。
溢れた熱が布を通り越して大和の指にまで手塚の快感を伝えてくる。
「それから?」
促されるままに手塚は大和の指を誘っては自分の身体を教えていく。
そのたびに腕にブラウスを絡ませたままの身体が跳ねて甘い声が部屋に響いた。
やがて手塚の指は一番最初に教えたところをもう一度示す。
最初に教えたそこが一番なのだと。
「いいですよ、手塚くんがちゃんと教えてくれたから。君の好きなところ、たくさん愛してあげます」
その言葉通り大和はときに緩く、ときに強く、焦らすように遊んだかと思うと優しく触れて手塚の示した場所を愛し続けた。
既に手塚は身体中を包んでくる波にさらわれたように、その身をすっかり大和にあずけて声を上げることしかできなくなっていた。
羞恥と快感が相まって、あっという間に快楽の極みに押し上げられてしまう。
そうして大和の腕の中で身体を震わせていた手塚は、最後には声もなくその高みに行き着いた。
ぐったりとする小さな身体をあやすように、大和は自分の胸に寄りかかっている手塚の髪を何度も梳いた。
本当はもっと手塚に気を遣ってあげたいけれど、いつまでも納まらないその荒い息遣いが大和を急き立ててくる。
「手塚くん、もっと教えてください。君の身体のこと、もっともっと知りたいんです」
力をなくしたままの手塚にまとわりついていたブラウスと下着を取り去って、大和はその身体を抱き上げてベッドに横たわらせた。
「あ……」
一瞬手塚が起き上がろうとしたものの、大和はその肩を押さえて首筋に唇を埋めた。
それはやがて鎖骨を通り胸の間を通り、その膨らみに立つピンク色を含む。
「あぁ……、ゆう、だいさま……」
一度高みに昇ってしまった手塚はもう声を抑えることもできず、素直にその悦びに身を任せている。
何度も何度も唇に含んで舌で転がして、そうされているうちに、いつの間にか手塚を覆っていた服は全て取り去られていた。
「ほら、見てごらんなさい」
そう言うと大和は手塚の腕を持ち上げて、ろうそくの淡い灯りに照らしてみせる。
「手塚くんの肌はこんなに綺麗でしょ? だからちっとも恥ずかしがることはないんですよ?」
手塚を腕に抱くたびに、大和は同じことを繰り返した。
それが少しでも手塚の不安を取りのぞけるのならと、希望のように魔法のように、大和はいつも繰り返していた。
「でも……恥ずかしいです」
見上げる手塚の眉根は僅かに寄せられている。
「どうしてですか?」
「……だって……」
それ以上何も言わず、手塚はぎゅっと大和の白いシャツを握りこんできた。
その意味に大和はくすりと笑うと、一度手塚から身体を離してシャツのボタンに手をかける。
やがて手塚に触れてきたのはそれまでの布のさらさらした感触とは全く違う、しっとりとした熱さを持った大和の肌だった。
その肌に抱きしめられて、手塚はまるで安堵したような吐息を漏らす。
そうして大和の背中にしっかりと腕を回してくる手塚が、どうしようもないほどに愛しかった。
「もう、恥ずかしくないでしょう?」
その問いに手塚は見上げるようにしておずおずと頷く。
「じゃ、もっともっと気持ちよくなりましょう」
にこりとする大和の言葉に、淡い光の中にあってさえ分かるほど手塚の頬が朱に染まった。
それから何度も鋭い光がカーテン越しに光り雷鳴が轟いたはずなのに、手塚の耳にはそんな音はまったく届かなかった。
それ以上に大和の囁く声と自分を愛してくれる身体に包まれて、手塚は自分の声も身体も分からなくなってしまいそうなほどの感覚に満たされていた。
馴染みのある香りに大和が薄らと瞼を上げた。
周囲はまだ暗いままで、雨の音も風の音も激しいままだ。
身体を起こそうとして自分の腕の中に手塚の髪が眠っていることに気づく。
手塚を起こさないようにそっと腕を外すと、大和は既に暗闇に慣れた目で室内を見回した。
ベッドから少し離れたクローゼットの横のテーブルに小さな赤い光が見える。
それは温熱器の電源ランプで、その上にはコーヒー・サーバーが乗っていた。
そういえば後で自分の部屋にコーヒーを持ってきてくれと乾に頼んでいたことを思い出した。
どこまでが本気でどこまでが冗談なのか判断しかねる乾の生真面目さに大和は苦笑する。
それでも彼が非常に気を遣う男であることは、サイド・テーブルに置かれている二つのグラスとミネラル・ウォーターの入った水差しが証明していた。
静かにベッドの端に腰をかけて水差しに手を伸ばす。
グラスに水を注ぐと、水差しには氷が入っていたらしく耳障りの良い音が響いた。
一口水を飲んで息をつく。
それからベッドに戻ろうと振り返ると、じっと自分をみつめている手塚と視線が合った。
「あ……、起きちゃいましたか? すいませんねぇ」
「いえ」
手塚はそれだけ言うとすぐに視線を伏せてしまった。
それは何度大和に愛されても同じことで、手塚はいつも恥ずかしそうに目を伏せてしまう。
「水、飲みますか?」
それでも大和のその言葉は今の手塚には魅力だったようで、すぐに顔をあげると「はい」と頷いた。
やはり喉が渇いていたらしく、手塚は渡されたグラスの水をこくこくと飲んでいる。
その度に喉元が小さく上下しているのがなんとも愛らしくて思わずそこに手を伸ばしたくなった。
と、ふいに遠くの方から低い雷鳴が聞こえてきた。
手塚の動きが止まって窓の方に視線を向ける。
そのまま動かなくなってしまった手塚からグラスを取り上げると、大和はその身体をそっと抱きしめた。
「大丈夫ですよ。こうしていてあげますから」
ゆっくりと手塚の身体を倒して一緒にベッドに潜りこむ。
それでも抑えられない不安があるのか、手塚は大和の胸にぎゅっと寄り添ってきた。
「手塚くんはそんなに雷が怖いんですか?」
頬にかかる髪に囁くようにして大和が聞くと手塚は一度だけ頷いて改めてその頬をぴたりと胸に寄せてくる。
大和は考えるような溜息を一つつくと、「そうだ」と手塚の顔を上げさせた。
「こう考えましょう」
そう言って人差し指をぴんと伸ばしてにこりとする。
「きっと雷は寂しいんですよ」
その言葉に手塚はきょとんとした表情で大和を見つめた。
「寂しくて友達がほしいから、あんなふうに大声を出して自分がここにいることを教えているんだと思いますよ」
「………………」
しばらく無言で見つめてくる手塚に、やはり子ども騙しすぎてスベったかと思っていたのだが、「でも……」とふいに小さな声が大和の胸のあたりから聞こえてきた。
「でも、何もあんなに大きな音を出さなくても……」
「そうですね」
こんなふうに話に乗ってきてくれるのがどうしようもなく可愛くて可愛くて仕方がないんだよなと、声までニヤけそうになるのを堪えて優しく手塚の柔らかい髪を梳き始めた。
「だけど、僕にはその気持ち、すごくよく分かりますよ?」
「……どうしてですか?」
「僕も同じだからです」
不思議そうに胸の中から見上げてくる手塚の額に、派手な音をさせて口付けをする。
「手塚くんが好きで好きで仕方なくて、ときどきひどいことをしちゃうんです」
「ひどいなんて……そんなことありません」
「そうですか? でも君はさっき僕に『ひどい』と言いましたよ?」
「え?」
少し驚いたように手塚の瞳が見開かれる。
「覚えてない? それとも気持ちよすぎて忘れちゃいましたか?」
からかうような声音に手塚は自分の言ったことを思い出したのか、それとも今の言葉に反応したのか慌ててその視線を伏せてしまった。
既にろうそくは燃え尽きているから分からないけれど、きっと頬をピンク色に染めているに違いない。
「ときどきね、どうしようもないほどに君を苛めたくなってしまうんです」
片手は手塚の肩を抱いて片手は髪を梳きながら大和は言葉を続ける。
「でもそれは手塚くんが大好きだからなんですよ。君が感じてくれてるとすごく嬉しくて、もっともっと気持ちいい声が聞きたくて。だからいっぱい気持ちよくなってほしいんです」
「……もう、……た…から」
「え?」
何か言葉は聞こえてきたけれど、胸に顔を埋めたまま喋ったせいでその声はひどく篭ってしまい聞き取ることができなかった。
「何?」
「……もう、分かりましたから」
大和の言葉に照れてしまったらしい手塚は、少しだけ顔を上げてそう言うとまたすぐに俯いてしまった。
―― 奇跡だ……。
こんなに素直で可愛らしい天使が自分の腕の中にいることがふいに信じられなくなりそうだった。
ぎゅっと抱きしめてその存在を確かめてみる。
僅かに身じろぎをしたその身体は確かに本物で……。
「本当に分かってくれました?」
小さく頷いた頭も間違いなく本物。
「それじゃ……、ね、手塚くん?」
その頭のてっぺんに口付けをすると、髪を梳いていた指が下ろされて、まだ熱さを残している場所にそっと忍び込む。
「あ……っ」
思わず手塚の唇から漏れた声に大和はくすりと笑った。
「君がそんな声を出すから……」
|